001
窓から差し込む陽の光によって、僕は目を覚ました。
身に馴染まないベッド。見知らぬ天井。着慣れぬ服と、壁にかかっている唯一見慣れた制服。それらに感じたものは違和感というよりも、昨日の全てが夢でも幻でもなく現実だと何度も叩きつけられてきたそれらの、最後のダメ押しのようにも感じた。
◇ ◇ ◇ ◇
「蓮さぁ、折角俺がいい感じの別れ方したのに、ものの数時間で帰ってくるとか恥ずかしくないのか?」
僕はあの後、心底面倒臭そうに迎えに来た天と共に、再び彼の家へ戻ってきた。
少し放心状態だったから詳しくは覚えてないけれど、あの平屋とはまた違う、人の気配のしない寂びた廃屋のようなもののドアを開いたと思ったら、またこの探偵の家へとやって来ていた。
どういう仕組みなのかと少し考えたが、僕が幾ら考えても仕方ないことだ、ということだけは数瞬の内に理解出来た。
「いや、それは確かにそうだけれど……だって、なんかいっぱいいたから……帰れなかったんだよ」
実際はいっぱい、なんて単純なものではなかった。自分の部屋の中で百鬼夜行が起きていると思ったぐらいなのだから。
「そりゃいるだろ。形がどうあれ、結果がどうあれ、あそこでは一度人の魂が抜け出た。どんなヤツか、どんな様子かを見に来ただけのだっているだろうし、残っているのなら食ってやろうとでも思った輩もいるだろうからな」
「そう、なんだ……」
と言ってから、僕は気づいた。
「──やっぱり知ってて帰したなお前?」
相手を睨むように目を細めつつ、相手を見ると、狐はただニッコリと笑っていた。
「いやぁ、まさかあれ程とは思ってなかったけどね。何?あそこワケあり物件だったりするのか?」
「────」
この一日の間、僕の中でこの桔梗天という人物の株が、何度上がり下がりをしたのだろうか。
ちなみに今は絶賛下降中の大暴落で、絶叫系ジェットコースターでも舌を巻くレベルの落下角度だ。
直角落下だった。
「そんな顔すんなよ。少しからかっただけだ。どうやら上手くいきやがったロマンス野郎への俺なりのプレゼントだよ」
その後、羨ましい、と小声で続けたように聞こえたが、気のせいだろうか。
それに、あれは──上手くいった、のだろうか?
どちらかと言うと──
「さて、じゃあ早速調べよう、といきたいが──一つ問題がある」
問題?と僕が言うと、天は頷いた。
「俺は明日から、遥真達の方に力を貸さなきゃいけない。こっちは早急な要件だし、割と大事だ。
そしてそっち。蓮の方は別に急ぐような事じゃない。それにあの量。一応後で試してはみるが、恐らく今夜だけでどうこうなるレベルじゃない。つまり──蓮の家については鬼達の問題が解決した後に詳しく調べることになる」
「……あの、じゃあ僕はそれまで彼らと生活しろってことですか?」
何故か、敬語になってしまった。
「え?それがいい?ならそれでも俺は別にいいけど」
「無理!ムリムリムリ!!」
顔の前で手を何度も振り、首も左右に振ってのノーサイン。素晴らしく面白い絵面だったと思う。
天は、だろうな、と言って軽く笑う。
「かと言って、神宮寺の家に泊まらすのは俺は容認しかねる。第一、あの家はそう易々と入れるような所じゃないだろう?
まぁ、それでも彼女さんともっと一緒にいたいとか、イチャイチャしたいだとか欲にまみれた人間らしいこと言ってくれるなら、俺は止めなどしないが」
「無理!それこそ絶対無理!」
「なんだ、つまらん。結局は根性なしの童貞か」
「ど、童貞関係ないだろ!?」
つい反応してしまったし、突然の事で普通に認めてしまった。そんな僕を、天は悪い顔で笑いながら見ていた。
「根性なしの経験なし」
「う、うるさいな、お前はどうなんだよ!」
「それを聞いてどうする?仲間がいたと喜びたいのかい?それともただ、自分の現状をさらに嘆きたいだけ?」
「ぐ……っ」
「それに、俺がどうあったとしても、誰かがどうあったとしても、お前の現状は特に別に全く何も変わらないと思うんだけど?」
「ぅ……」
自分でもなんでそんな事を聞いたのかよく分かってないのに、そんな事を言われては、これ以上何か言った所でただ自分の首を絞める事になるのは自明の理だった。
にしても──こいつは僕を玩具とでも思ってるのだろうか。一体今日の間に何度いじられ、からかわれたのだろう。
「あぁ、しまった。こんな男子高校生のようなくだらない会話に脱線してる場合じゃなかった。
結局、俺がどうしようとしてるのかと言うと──
──お前、今日からここに住め」
「……はい?」
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