009

 午前十一時二十四分。

 僕達は、市街の中心部まで来ていた。


「さて、何か分かったかい?肉体がいるなら、何かしら感じるハズなんだが」

 天は、いつも通りの口調で僕に聞いてきた。

「……別段、何も」

「ふうむ、そう、か。こっちも、鬼の気配は今はないかな。……やっぱり、学校にいるんじゃないかな、君が思っている鬼は」

「うーん……」


 どうして僕の家から出ているのか。

 時は、少し遡る


「三時間ってなんだよ!?聞いてないぞ!」

 午前十一時五分。

 僕は、天を睨むようにして食いかかっていた。

「いやぁ、悪かったって。言うタイミングがなくてさぁ。それに会ってすぐそんなこと言うのも酷ってもんだろ?俺なりに蓮を慮った上なんだぜ?」

「それは……まぁ、そうなんだろうけど……」

 実際、出会い頭、開口一番にそんなこと言われていたらどうなってたか分からない。


「……時間が経つとどうなる?」

 少し落ち着いてから、天に訊ねた。

「死んでから六時間。つまり、体を乗っ取られてから六時間ってことだけど、それほどまで時間が経ってしまうと、お前の肉体が鬼火を自らの魂として認める。つまり、お前さんは肉体から引かれなくなる。そして、お前の魂はお天道様の元へ、って感じさ」

「そんな……」


 死んでから六時間。つまり、十四時。

 本当に、僕は、死んでしまう。

 二度目の死。


「安心しろ、それよりも先に、鬼火を追い出して、お前さんの魂を肉体に結びつけ直す。そうすりゃ解決さ」

 ニコニコと、そう言う。

 そう言われてもなぁ。

 そう笑われてもなぁ。

 そう安心できないんだよなぁ。


 何せ、時間がないのだ。

 三時間足らず。


「はは、大丈夫大丈夫、間に合うって」

 ニヤニヤと笑い続ける探偵。

 さては他人事だからって適当だな、こいつ。


「それにだいたいは説明してやったんだ。時間もそれなりに、経ったし、そろそろ目星ついたんだろ?」

「……?何のだよ?」

「いや、何ってお前、犯人の生みの親……鬼の正体だよ」

 僕と、関わりのある者の中で、人だと思って疑わなかった、疑えなかった、鬼。

 僕に殺意を抱いた、その、正体。

「……一応、ある」

「ほほう、本当にあるとは。それは何より。なら移動しながら話してくれ。霊体なんだから俺に捕まってれば大丈夫だ」

 そう言って、僕達は家の外に出た。

 僕としては、今日、初の外出であった。


 外に出るやいなや、天は誰かに電話をかけた。

「あー、もしもし、クウ?悪いんだけどさ、学校抜けてくれないか。人手がいる。何より戦力が。おう、頼む。え?いや、待って、そんなの買えるわけないだろ!?ま、おい、こら──切りやがったよ」

 はぁ、とため息をついて、スマートフォンをしまう天。

「……誰にかけたんだ?」

「ん、ちょっとばかし、増援を、な」

「増援……追加料金とか、かかるのか?」

「はは、それで、誰なんだ?その鬼は」

 濁しやがったよこいつ。

 まぁ、お金なんて別にいいけど。


「──最近怨まれるようなこと、なんて言ったら幼馴染と喧嘩した事だけなんだよね。だから、その幼馴染何じゃないかなって」

 あまり、そうだとは思いたくないけれど。

 それ以外、思いつかない。

「幼馴染ぃ?うーん……そうか……なぁんか違う気がするけどなぁ……じゃ、とりあえず、そいつを探すか」

「そいつを見つけて、どうするんだ?」

「鬼火を呼び出してもらう……若しくは、場所が分かるはずだから、教えてもらう」

 どっちにしろ、ひと筋縄でいかなそうだけれど。

 時間、大丈夫、なんだよな?

「その後に、僕の体を見つけて、鬼火に出てってもらう……」

「そゆこと。さて、なら学校かな?どこ高校?」

「──いや、学校じゃない。街に行こう」




「そう、お前が言ったから街に来てみたが、なんで街なんだ?」

 天はあたりに目をやりながら、話しかけてきた。

「どうせ、今日は学校には来てないだろうから。暇つぶしてるとして、色んな店が多いここかな、と」

 あいつの事だ、あんな事があったのに、来れるはずがない。

 そういう奴なのだ。

「ふぅむ。お前さん、その幼馴染君と大分親しいみたいだな。いつからの仲だ?」

「……親からの繋がりで……赤子の頃から」

「おいおい、それはすごいな?それから、ずっと?」

 こくり、と頷く。


 ずっと。

 ずっと、幼稚園も、小学校も、中学も高校も、一緒だった。

 ずっと、怨まれていたのだろうか。

 ずっと、嫌われていたのだろうか。

 ずっと──。


「──さっき言ってた喧嘩とやら、事細かに教えてくれないか?」

 少し、真剣な面持ちな天に驚きつつ、僕はもう一度頷き、歩く天の肩に捕まりながら話し始めた。


 僕とその幼馴染──おりはる。そして、もう一人の幼馴染、じんぐうあおいの話を。

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