第21話 5人目の『ROCHAIKA-sex』
風呂上がりだったので、なんとなくカーステでRCの『雨上がりの夜空に』を聴きながら Gun & Me に戻った。途中ドラッグストアで大量の栄養ドリンクを買い込んで。
「ほら、セナ、そこのビートもたついてる‼︎」
「チャイ、怒鳴って歌うな‼︎」
「加瀬、もっと自己主張して‼︎」
「ロック、根性見せんかい‼︎」
時刻は午前2時を回った。
みんなネマロに延々と怒鳴られ続ける。しかし、その指摘が適切なので誰も文句を言えない。ネマロはいわばプロューサーとしての役割を果たしてくれている。
『行こうか』というオリジナル曲。
チャイが考えてきた歌詞をみんなで推敲しながらレコーディングは続いた。
眠くなるだろうと心配していたけれども、不思議なことに演奏すればするほど頭が冴え、体のキレも増してきたような気がする。チャイなどは軽く踊りながらマイクに向かっている。
そう。
この『行こうか』っていう曲はわたしと加瀬ちゃんが出会ったばかりの時に2人で即興で作った曲だ。ギターのシンプルなリフが繰り返され、ベースのソロパートもつまり即興だ。だから、ジャムセッションのようなリフレインとフィルインで構成される曲。ノリがいい。いいんだけれども、なにか物足りない。
セナがぼそっと呟いた。
「キーボード、要らないかな」
「それだ‼︎」
ネマロがセナをびしっと指差し、大声をあげる。
「セナ、ナイス‼︎ キーボードもリフろう‼︎」
ネマロの反応にチャイが訊く。
「でも、誰がキーボードなんて」
「まあまあ」
そう言ってネマロはガラガラとキーボードスタンドを引っ張ってきた。そのままテキパキとセッティングする。
シンセ機能を使い、音色を作った。
「へえ・・・慣れてるね」
ネマロはチャイの言葉を聞き流し、鍵盤の上に軽く手をかざして、そのまま音を出し始めた。
「どう、こんなの?」
そのまま即興でキーボードを弾き始める。キャッチーなリフ。みんな驚く。
「え? すごい‼︎」
セナが体を揺すり始める。加瀬ちゃんが軽くヘッドバンギングする。チャイが足で床をタンタンと鳴らす。
わたしも踊り出した。そして、そのままギターを弾いてみた。
いつの間にか全員自分のポジションに戻り、楽器を鳴らし始めていた。
チャイが歌う。
今までで一番ポップな歌い方だ。
「いいよ、チャイ。思いついた歌詞、そのまま歌って」
ネマロに促され、チャイが高音域を伸ばして歌う。
言い出したいことやめるな
やり出したいこと止めるな・あ・あ
駆け出したい足止めるな
歌い出したい胸塞ぐな
「チャイ、可愛い・・・」
加瀬ちゃんの言葉にわたしはチャイが歌う横顔を見てみた。
男っぽい振る舞いで全然意識していなかったけれども、チャイのまつ毛がとても長いことに初めて気付いた。
何より今現在進行形で出来上がって行ってるこの曲に没頭して歌うその表情がとても可憐だ。
「OK、お疲れ‼︎」
ネマロの合格コールに、全員感慨深い表情だ。
「でもさ。ネマロ、あんたって何者?」
チャイの質問に対し、ネマロの代わりにわたしが答えた。
「チャイ。ネマロはさ、4歳の時からピアノやってて、中学の時にヨーロッパのジュニア国際コンクールで優勝してんだよ」
「マジ⁈」
「ほんとほんと。でもさあ、そのあとで『なんか虚しい』とか訳のわかんないこと言ってロックに目覚めちゃってさ、今じゃこんなだよ」
「こんなって言うな」
「ネマロさんは、5人目のROCHAIKA-sex ですね」
おー、とみんな拍手する。
ネマロは照れる。
「いや、わたしはバンドって柄じゃないからさ。サポートスタッフって感じならいいよ」
こうして5人の ROCHAIKA-sexは、枕を並べて(実際はクッションだけど)爆睡した。
わたしが目を覚ますと、セナの白い長い足と、ネマロの黒い長い足が、にゅにゅっと目の前にあった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます