第25話 ハイウェイを走れ、廃車寸前のバンで
チャイが復活。
わたしは行動を加速させる。
根元さんに再度頭を下げた。
「根元さん、デモを持ち込みます」
「え。今時持ち込み? どこに?」
「KPI です」
「え」
常時冷静沈着な根元さんもわたしの言葉に動きが止まった。
「ロックちゃん、本気?」
「はい。本気です」
「あなたもわたしを見捨てるの?」
この強靭な精神の持ち主がここまで弱みを見せるとは。やっぱりブレイキング・レモネードはやってはいけないことをやってしまったってことか。
KPI は、ブレイキング・レモネードが契約したレーベルなのだ。
「根元さん。わたしは Gun & Me が好きです。それに、わたしのホームポジションともいえるこの辺鄙な北の地方をとても気に入っています」
「ええ・・・」
「だから、誰もがやるようなあったり前のことなんかやる気がしません。いえ、死んでもやってやるもんか、って思います」
「どうするの?」
「破格の条件を相手に呑ませます」
「破格?」
「はい。まあ、それだけの実力がわたしたちにあったとしたら、って前提ですけど」
「KPI がどう受け止めるかは分からないけれど、あなたたちがとてつもなくすごいバンドだっていうのは、わたしが知ってる。でも、何? その破格の条件って」
「それはまだ言えません。サプライズです」
「・・・お願い、きっと帰って来て」
「もちろんですよ」
「わたしにはこのライブハウスしかないの。20歳の小娘だったわたしが死ぬ気で稼いだ自己資金と頭が破裂するぐらいに練りに練った事業計画で受けた融資とでこの店をオープンさせた」
「はい。ほんとにすごいと思います」
「ブレイキング・レモネードのプロモーションにも追加融資を受けて対応した。わたしは、文字通り心血を注いで経営してきた」
「根元さん。ものすごく不遜な言い方ですけれども、わたしはあなたを卓越した経営者として評価しています」
「ありがとう」
「純粋に客観的に判断して、ブレイキング・レモネードが根元さんと袂を分かったのはバンド戦略上失敗だと思ってます。だからわたしは根元さんが今の経営センスを鈍らせない限りはパートナーとしてあなたを選びます」
「ふふっ」
「すみません、偉そうなこと言って」
「そうじゃないのよ。ロックちゃんもいい経営者になれるだろうなって思って」
「わたしはただのバンドマンですよ」
「それで、いつ東京へ?」
「はい。明日の夜に」
「わかったわ。全部出し切ってきなさい」
「はい。激情をぶちまけてきます」
そして出発の深夜。
ネマロを含む ROCHAIKA-sex の5人は、廃車寸前のバンで高速に乗った。
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