第26話 完徹ハイウェイ・ゴー・ゴ・ゴー
カーステをガンガンにかける。
だって、そうしないと眠っちゃいそうだから。
「みんな、寝てていいよ」
「そんな。運転してくれてるロック先輩を1人にするなんてできないですよ。東京まで盛り上がっていきましょう!」
高速道路を走ってはいるけれども、このバンは法定速度である時速100キロを出すのも正直しんどい。せいぜい90キロちょっとが限界だ。なので東京へはまるまる一晩かかるだろう。
「イエーッ。曲を切らすな、次いこ次」
みんなそれぞれ持ち寄ったCDを次から次へとカーステにぶち込む。
「エレカシ最高!」
チャイがやたらテンション高く曲に合わせて歌う。
かと思えば加瀬ちゃんがストーンズの、『If you can`t Rock me, somebody will』をかけて、
「わたしはこれが一番かっこいいって思ってる!」
と叫ぶ。加瀬ちゃんらしくない。お酒でも飲んでるのだろうかと思うぐらいだ。
「これ、かけて・・・」
そう言うセナの選曲はニューオーダーの『ブルー・マンデー』だった。
「うっわ、渋っ」
みんなセナのセンスに脱帽する。
「わたしの攻撃を受けてみよ」
と言ってネマロがかけたのはベートーヴェンの『悲愴』だった。
「え? クラシック?」
チャイがそう言うと、
「チャイ、甘いね。これ以上のロックがどこにあるっての」
確かに、ロックしてる。
ベートーヴェンの偉大さを噛み締めつつわたしが選んだのは、プリンス&ザ・レヴォリューションの、『レッツゴー・クレイジー』だった。
「おお。プリンスだ」
「本物の天才だ」
みんなの感嘆の声にわたしは打ち明けた。
「実はさ、ROCHAIKA-sex ってプリンス&ザ・レヴォリューションをイメージしてるんだよね、わたしとしては」
「あ、分かる」
「お。さすがネマロ」
「だってさ、ロックの
「あ、それは嬉しい。じゃ、ネマロはリサってことか」
「まあ、ああいうセンスのいいキーボーディストと比べられるのは嬉しいね。でも、わたしの
「ネマロさん、ロック先輩、2人だけの世界に浸らないでくださいよ」
加瀬ちゃんがふくれっ面で言うのも無理はない。プリンスのパープルレインのリアルタイムは、わたしたちの親世代のはるか昔のことなのだから。
「でも、全く古くないよね。ううん。それどころか、今の時代よりも遥か先の時代へと突き抜けてるよ。どこまで天才なんだよ、って感じだね」
「おり? チャイ。あなたの年代でそういうこと言うってませてるね」
「何言ってんの。ロックだってわたしより1つ年上なだけじゃない」
「1つだろうと年寄りは年寄り。年長者を敬いなよ」
途中インターで何度か休憩した。夜食のラーメンも食べて元気が出てきてまた運転して。
「あらあら。ロック、若い衆は全員寝ちゃったよ」
ネマロに言われてバックミラーを見ると、後部座席で加瀬ちゃん、チャイ、セナが頭を擦り合うようにして寝息を立てている。かわいいもんだ。
「あーあ。年寄り2人で完徹か」
「そう言うなよロック。年寄り同士語り合おうじゃないか」
「しょうがない」
「で、ロック。マジな話さ、勝算あるのか?」
「ん? KPI への持ち込みのこと?」
「うん。大体、アポも取ってないんだろ? どうすんだよ」
「うちらはロックバンドだよ」
「もちろんだよ」
「ロックバンドがさ、シューカツ学生みたいに、『御社に10時に伺います』とか、どうよ」
「まあ、ビジネスである以上仕方ないんじゃないの」
「ネマロも丸くなったね。わたしはそうは思わないけど」
「じゃ、どうするんだよ」
「今話すとみんな
「おいおい。なんか本気で怖くなってきたな。大丈夫かな、わたしら」
「ネマロは犯罪者なんだから別に平気でしょ」
「犯罪者なんて言うなよ。なんだか分かんないけど、ロックが考えてることの方がよっぽどヤバいんじゃないのか?」
「着いてからのお楽しみだよ」
カーステから ACIDMAN の『Free Star』が流れてきた時、東京のビルの山々の稜線から、朝日のまばゆい光がわたしたちの目を射た。
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