第22話 軌道にのる日常

わたしたちは日常を悪戦苦闘しながらやりくりして、いつの間にか夏休みになっていた。


ライブには気まぐれでたまにしか出てくれないけれどもいわば『5人目のROCHAIKA-sex』として強力サポートしてくれるネマロが加わったわたしたちは、怒涛のごとく突き進んだ。いや、『ごとく』じゃないな。まさしく疾風怒濤の快進撃、と自画自賛できる。


「売上前年同期比で25%アップだよ」


根元さんから感謝感激された。もちろんROCHAIKA-sex だけの功績じゃない。他のバンドもやたら気合が入るようになったのだ。でも、『女子高生に負けてたまるか』と、わたしたちが彼らに火をつけたことは間違いない。

そしてわたしたちは一曲だけでいいから、と根元さんに頼まれて平日も出演するようになった。


セナはライブ出演はなんとかなるのだけれども人見知りするのでスタッフバイトは苦手だ。けれども特別扱いはできない。宥め賺すように毎日部屋の前でおびき出してバンに連れ込む。


「北部。あんた一度見にきてやんなよ」


妹のドラムを聴いてやれと何度も促したけれども北部の根性なしは未だに Gun & Me に来ない。


わたしはというと、一応就職活動を始めた。塚ちゃんをヘッドとしたスカジョの優秀な進路指導教師陣の推薦を受け、いくつかの中小企業と面接もした。姉の七光りでお姉ちゃんの会社の社長からも『是非きて欲しい』と言われてるけれどもさすがにお姉ちゃんと比べられたら勝ち目はないのでちょっと勘弁かな。そして塚ちゃんとわたしの狙い通り、わたしが普通免許を持ち既に日常的に運転していること、ライブハウスのスタッフバイトのみならずライブ出演していること、青果市場のバイト掛け持ち、ついでに高校の学科成績もそれなりにいいことのすべてが就職活動の上で強力なアドバンテージとなっている。家事をやっていることも、『生活力あり』と評価されてる。

夏休み明けにはいくつかの会社から内定をもらえそうだ。

ただ、森っシーは面白くないらしく、


六区ロック、いつまでバンドなんかやって遊んでんだ‼︎」


なんて未だに言っている。


イサキたち吹奏楽部は軽々と全国大会出場を決め、会場となる東京に今日から入って合宿を張るという。ブレイキング・レモネードの曲でイサキはパーカッションと合わせてドラムも叩くらしい。全国優勝、わたしは祈っている。


加瀬ちゃんもライブのギャラがそれなりなので、生活は安定してきている。ただ、両親の退院の目処はつかない。わたしは加瀬ちゃんをなんとか幸せにしてあげたい。


実は一番心配していたのがチャイだ。

彼女は母親から折檻されながらも毎回参加してくれている。

コードをいくつか教えると、拙いながらも歌いながらギターを弾くこともできるようになった。ニック・ロウの、『Born Fighter』という曲では実にかっこいいブルースハープも披露してくれた。何より、彼女の歌声は激しいだけでなく、とてもキュートで容姿ルックスも小柄で中性的なので一部の男性ファンから熱烈に支持されてる。


『チャイちゃーん』


なんて声援を受けると


『やめろ、気持ちわりー』


とか照れて言ってるけれども、曲の終わりには笑顔で声援に応えるファンサービスも板についてきた。


でも、やっぱり、無理してるように見えることがあったのだ。


そんなとき、チャイからラインが入った。


『ごめん。今週いっぱい行けない』


まずいな、って直感した。

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