第19話 ネマロ・DE・スーパー銭湯

とうとう合宿の日となった。

日曜の夜のステージを終え、明日は月曜で三連休の最終日。


「じゃ、鍵わたしておくからお願いね」

「はい、お休みなさい」


根元さんを見送ってからわたしは号令をかける。


「さ、風呂行くよ」

「風呂?」

「そう。ライブで汗かきまくりでしょ? 車で20分ほどのところにスーパー銭湯があるからそこに」

「へー。いいね。行こ行こ」


チャイが珍しく乗り気だ。でも、セナは。


「ロックさん。わたし銭湯はあんまり・・・」

「なんで? 知らない人がいっぱいだから?」

「うん」

「じゃあ、目つぶって入ったらいいよ」

「う・・・ドラムみたいにはいかないですよ」

「大丈夫。セナのその長身スレンダーボディで他の入浴客を見下してやんなよ」

「おー。セナの裸は楽しみだねえ。ところでロック先輩、ネマロさんはいつ合流するんですか?」

「うん。電車で来るから銭湯行く途中で駅で拾うよ」

「でも、スカジョに放送部があったなんて知らなかった」

「甘いよ、チャイ。校内放送やら運動会のアナウンスやらをやるだけが放送部のじゃないよ。というか、放送局って言った方がいいかな」


説明を省略してわたしたちはバンで Gun & Me を出た。駅前に着くと、みんな一斉にネマロを探す。


「なんか、それっぽい人がいないですね」

「みんな何言ってんの? あそこにもう着いてるじゃん」

「え? どこですか?」

「ほら、あそこ」


わたしがロータリーの方を指差し、バンをその近くに寄せる。みんなまだ認識できない。

そうこう言っている内に、ロータリーの所であぐらをかいていた女が、たっ、と立ち上がってバンの後部座席に乗り込んできた。


「よ。3年の禰麻呂ネマロ 明日香アスカでっす。よろしくね」


もじゃっとしたカーリーヘアでブーツィーコリンズばりの尖ったサングラスをかけ、初夏にしても涼しすぎるグリーンのタンクトップにオレンジのショートパンツ。長いけれどもややむちっとした足を組んでどかっと座席に座った。チャイは浅黒だけれども、ネマロは完全日焼けの褐色肌。


「ネマロ・・・さん? 本名だったんですか」


加瀬ちゃんが気を遣いながら話しかける。ネマロはナイキのランニングシューズの踵を履きつぶしている。

チャイが面白くなさそうに剣のある質問を投げかける。


「こんな目立つ格好なのに学校で一度も見たことないけど」

「ああ。わたし四月からずっと無期停学中だから」

「え? なんで?」

「ちょっと電波法に引っかかっちゃって。さすがに警察沙汰になったからなんか処罰しないとまずいんじゃない? 学校的には」

「ネマロは個人でFMの放送局を開設してたんだよ」

「そう。まあ、わたしが DJやって、音楽番組っていう感じのプログラムで。ただ、広範囲に放送したくてちょっと電波強目にしちゃったもんだから摘発されちゃって」

「犯罪者じゃん・・・」

「まあ、別に人を殺したりしてるわけじゃないからいいでしょ。それより、これからどうするの?」

「ネマロはスーパー銭湯ってよく行く?」

「お。銭湯か。いいねー。わたしの日焼け肌を見せてやるよ」

「どうせ水着の跡が真っ白になってんでしょ」

「いやいや。停学ライフを利用してアメリカのヌーディストビーチに行ってたから、胸からお尻から全部こんがり焼けてるよ」

「あ、そうなんだ・・・って、なにそれ?」


ネマロにかかるとさすがのチャイも押され気味だ。


「ところで、奇妙な生き物がいるな」

「う。わたし、奇妙じゃない」


からかわれてセナが反論するけれどもネマロは一向に頓着しない。

セナに話し続ける。


「いや。奇妙っていうのはさ、えらい個性が強いって意味だよ。いい意味でね。そのジャージもいかしてるよ」

「あ・・・ありがと」


セナもネマロにやられっぱなしだ。


「あ、着いた」


常識人の加瀬ちゃんが冷静にスーパー銭湯への到着を告げてくれた。

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