第九章(4) 勇者と勇者パーティ


「わたしのことに関してはこれくらいでいいでしょう。マスター、ここにいらした理由をお教え下さい」


 勇者はハッとした。そうだった、そのために来たのだった。


「すまないが武道家、キミの力を借りたいんだ」

 勇者のその言葉を聞いた瞬間、武道家はその場に畏まる。


「わたしの力が必要ならば、いつでもあなたの下へと駆け付けましょう。そのためにわたしは生み出されたのですから」

 すぐに承諾してくれたことに、勇者の顔がほころぶ。


「さ、さすが武道家だよ! あのおっかない母親や融通の利かないエイミーとは大違いだ!」

 ひどい言い草だった。特にエイミーは可哀想だった。

 だが武道家は頭を上げると、跪いたまま訊いてくる。


「ですがマスター、よろしければわたしの力を必要とする理由をお教え願えませんでしょうか?」

 確かに、いきなり魔王と戦えと言われても戸惑うだろう。そう思った勇者は理由を全て話すことにした。

 しかし勇者の話を全て聞いた武道家は、即座にこう言ったのである。


「申し訳ありませんマスター。やはり先程の答えは撤回させていただきます」

「な、なんで!?」

 慌てる勇者に武道家は淡々と口を動かす。


「わたしが加勢することにより、もしマスターが魔王さんに勝ってしまわれたら、マスターはもう学校に来ないのですよね? そうなればわたしはここでヤンキーどものヘッドをするしかやることがありません。それはちょっと……」

「別に俺が引きこもったって、ヤンキーのヘッドをする必要なんてないじゃん!?」

 勇者のセリフはまさしく正論だったが、しかし武道家は首を横に振る。


「それに……無機生命体として生み出されたわたしの存在意義は、マスターのサポートをすることです。しかしマスターが家に引きこもっているため、わたしがこの世にいる意味がありません。ですからどの道、承服しかねます」

 武道家の顔に初めて感情らしいものが見えた気がした。愁いを帯びた寂しそうな顔に見えるのは気のせいだろうか?

 だが、それでも勇者は引くことが出来なかった。


「なんでだよ!? キミ、俺の命令に従うようにプログラミングされてるんだろう!?」

 武道家は頷く。


「はい、確かにその通りです。しかしあまりに逸脱していると認識された命令に対しては己の判断で拒否することが許されています。例えばわたしのおっぱいを揉ませろと命令されてもわたしは拒否します」

「そんなことしねえよ! ……たぶん」

 ロボットのおっぱいがどうなっているのかちょっと気になったエロ勇者だった。

 いや、しかし今はそれどころではない。もしここで武道家にまで断られたら、一人で魔王と相対しなければならなくなる。それはまずい。


「なあ武道家、頼むよ~」

 勇者は泣き落とし作戦に出た。必死に武道家の肩を揺さぶる。しかし、


「触らないで下さい。セクハラで訴えますよ?」

「キミさらりと酷いよね!? 俺ってキミの“あるじ”のはずだよね!?」

「はい、あなたはわたしのマスターです。心配なさらないで下さい。刑務所に入ってもあなたはわたしのマスターです」

「刑務所に入るの確定かよ!?」


 律儀につっこみつつも、どうしたものかと頭を抱える勇者だった。

 ややあってから武道家が静かに口を開く。


「……一つ条件を飲んでいただいたら、考え直さないでもありません」

「え? ほ、ほんと!?」

「はい」

「で、その条件ってなに!?」

 武道家はその瞳をきらりと怪しく輝かせてから話し始める。

「実はわたし、ある不満があるのです」

「不満?」

「はい。その不満とは他でもない、このわたしの身体のことです」

 そう言って武道家は、その全身を勇者へと見せてくる。


「わたしはドクター・リカルドの手によって、このように小柄で華奢に造られてしまいました。それが不満なのです」

「そ、そうなの?」

「はい」

 確かに武道家は小柄で華奢だ。下手をしたら小学生に見えなくもない。

 しかしそれはドクター・リカルドに何か考えがあってのことに違いない。コンパクト&ハイパワーがドクター・リカルドのモットーであることも影響しているのだろう。


 だが、

「わたしはこのような小柄……というか、小さなおっぱいに造ったドクター・リカルドを恨んですらいます。何故ならわたしは大きなおっぱいに強い憧れがあるからです。そこでマスターにお願いがあるのです」

「な、なにかな?」

「ドクター・リカルドに掛け合って、今一度わたしの胸を大きなおっぱいに作り直すよう説得していただきたいのです。どうかわたしを大きなおっぱいにしてください」

 このロボどれだけ大きなおっぱいに強い想いがあるんだよ。勇者はそう思った。

「で、でもなぁ……そう言われてもリカルドさんは今、行方不明らしいんだよ」

「行方不明?」

「ああ。だから今すぐにキミのその願いを叶えることは出来ないんだよ」


 武道家は少しの間、俯いた。分かりづらいがどうやら落胆しているらしい。

 しかし、しばらくしてから顔を上げると、


「ではマスター。申し訳ありませんがわたしを仲間にすることは諦めて下さい」

「え!? そ、そんなぁ!?」

「諦めて下さい」

「そ、そこをなんとか!」

「諦めて下さい」


 武道家は頑なだった。どうやら大きなおっぱいになれなかったことが相当に不服だったらしい。

 勇者はやぶれかぶれでこう提案する。


「武道家。胸は男に揉まれると大きくなるらしいぞ?」

「!!」


 今の発言はどうやら武道家の中で大きな衝撃が走ったようだった。

 武道家は長い時間、黙考していた。今の勇者の発言を吟味し、必死に内なる葛藤と戦っているようだった。

 そしてやがて武道家は、断腸の想いでこう答えたのである。



「…………………………………………………………………………………諦めて下さい」


 ×××


 結局、勇者は誰も仲間に出来なかった。

 勇者は帰り道の森の中をとぼとぼと歩きながら、


「まいったなぁ……まさか武道家にまで断られるとは思わなかった……」

 勇者は立ち止まると、魔王がいるだろう東の空を見上げる。


「魔王のやつ、俺ら四人を相手にしても勝ってみせると豪語してたからなー。たぶん滅茶苦茶頑張って修行してるんだろうなぁ。やべえなー……」

 勇者はため息を吐いた。


「あれ? そう言えばあいつ確か、修行したことないのに魔王軍で最強って言ってたよな? ということはあいつが修行したら相当強くなるんじゃ……? こ、これはまずいぞ!」

 勇者の額に焦りの汗が浮かび始める。


「勝負に負けでもしたら無理矢理学校に連れて行かれる上、ずっとあいつに頭が上がらなくなるだろうし……。そ、そんなのイヤだ!」

 勇者はどうしたらいいのか必死に考えた。しかしどれだけ考えても答えは一つしかなかった。


「結局、俺があいつに勝つしかないんだよな」

 勇者の瞳の奥に決意の光が灯る。


「こうなったら俺もやるだけやるしかない。強くなって正面から堂々と魔王を叩き潰してやるぜ!」

 勇者は決意を固めると家路へと急いだ。

 我が家へと辿り着くと、真っ先にダイニングルームへと赴いた。そして勇者はダイニングテーブルに背を向けて腰かけている母親に向かって声をかける。


「……話があるんだ」

 美咲は湯のみに口を付けながら、背中越しに言ってくる。


「ちょっとは良い顔になって帰ってきたみたいね。見なくても分かるわ」

 勇者は美咲の背中をまっすぐに見つめ、決意を口にする。


「母さん……強くなりたいんだ。一週間で、出来るだけ強く……」

 美咲は湯飲みをテーブルに置くと、振り返りながら言った。




「手加減、しないわよ?」

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