第二章(2) 魔王とドラモンクエスト
「いや、分からぬが」
「そりゃ引きこもりになるだろってくらいに想像を絶するほどイヤな目だよ! 勇者が学校なんか通ってられるか! マジで学校なんてクソ食らえだーっ!」
学校でよっぽどイヤなことでもあったのか、絶叫する勇者だった。
はあはあと息を切らす勇者の背中を魔王は優しく擦ってやる。そのおかげで勇者の呼吸が楽になっていく。
「まあまあ、とにかく一旦落ち着いて」
「ふう、そうだな。ありがと。お前のおかげで落ち着いたよ……って、だからお前のせいなんだって!」
「うええ、そ、そんなこと言われたってぇ!」
魔王は涙目だった。それでも勇者は続ける。
「お前さえ……お前さえ人類と和平を結ばなければ……! お前さえおとなしく人類を襲ってくれさえいれば……! そしたら俺は今頃お前を倒して英雄として扱われているはずだったのに!」
勇者、心の叫びである。勇者は魔王の肩をがっしりと掴むと、
「……なあ、今からでもいいから魔王軍を全部引き連れて人類を襲ってくれよ。なん
なら本当に人類を滅ぼしちゃってもいいから。な? 頼むよ~」
とんでもないことを言い出す勇者に魔王は後ずさっていた。
「そんなこと出来るわけなかろうが!? 苦労してようやく和平を結ぶことが出来たというのに……って、ひっ!? お、お前、目が怖い! お前の目、本気過ぎるぞ! それでも本当に勇者なのかお前!?」
怖がる魔王に今度は膝を着いて頼み込む勇者。
「なあ頼むよ~。人類を滅ぼすのが本来の魔王の仕事だろうが~。もういっそ滅ぼしてくれよ~。俺なんて生まれた時に、『勇者になれますように』という想いを込められて『勇者』なんてそのまんまの名前を付けられちゃったんだぜ? これでこれから先どうやって生きていけと言うんだよ~……。もう、俺だけでもいいから殺してください……」
涙を床に落とす勇者に、魔王の顔は盛大に引き攣っていた。
「うう……なんなのだこの罪悪感は……」
しばらく気まずい時間が流れた後、やがて耐えられなくなった魔王が遂に頭を下げる。
「その……勇者ごめん。我のせいで……」
しかし勇者は力なく首を振る。
「……こっちこそ当たっちゃって悪かったよ。冷静に考えてみたらお前のせいなんかじゃないのにな」
「いや、我のせいだ。我が悪いのだ。勇者のことも考えずに人類と和平なんか結んでしまったから……。そうだよな。魔王が人類と手を結んじゃったら勇者はやるかたないよな? ほんと、ごめんな?」
「だからお前のせいなんかじゃないってば。……でも、ありがとな?」
「やめるがよい。礼を言うなどかゆくなるではないか。……ふふっ」
「……へへっ」
二人は鼻の下を掻いて照れ合う。安っぽい青春ドラマのような展開になっていた。
このいい雰囲気と言えなくもない空気を利用して魔王は再度訊ねる。
「で、勇者。学校には」
「行かない」
「ちいぃっ」
結局、魔王はそれ以上強く出ることは出来なかった。
「ぬう……仕方ない、諦めるとしよう」
「……意外とお前抜け目ないね」
ジト目の勇者に構わず、魔王は咳払いを一つ入れると、唐突に話を変える。
「ところで先程から気になっていたのだが……お前あれ、何をやっていたのだ?」
勇者はハッとする。何故なら魔王の視線は勇者の後方――先程まで勇者がプレイしていたゲーム――『ドラモンクエスト』に釘づけになっていたからだ。
「昨日の戦争のやつとは違うが、何かまた面白そうなものをやっておるようだな?」
「ううん、ぜんっぜん面白くないよ。だから帰って?」
あまりにもすげない勇者に魔王はびっくりしたように目を見開いていた。
「お、お前! そんなに邪険にしなくてもよかろうが!?」
「だってお前、どうせ『我もやってみたい』とか言い出すんだろう?」
魔王は首を傾げる。
「ダメなのか?」
「当たり前だろ! お前、昨日自分が何をやったのかわかってるよな? どうせまた爆発オチになるに決まってるんだから!」
勇者は必死に断っていた。
しかしどうしても目の前にあるゲームをやってみたい魔王は慌ててそれを否定する。
「ば、爆発させないから! 約束するから!」
「いいや、信じられないね」
勇者は全く取り合ってくれる様子はなかった。それでも魔王は必死に頼み込む。
「本当だって! 絶対に爆発させないから! 約束する! もし爆発させたらその場で裸になって土下座するから!」
「よし、付いてきな」
結局あっさりと了承した勇者だった。彼の下心に全く気付いていないワクワク顔の魔王をテレビ前のソファーに座らせると、勇者はコントローラーを渡しながら説明する。
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