第九章(1) 勇者と勇者パーティ

 勇者パーティのメンバーは勇者を抜いて全部で三人。僧侶、魔法使い、そして武道家だ。

 勇者を含めたこの四人――勇者パーティは魔王を倒すためだけに選抜された超強襲部隊である。

 魔王が人類と和平を結んだことにより、その強襲部隊は日の目を見ることはなかった。

 しかし――今再び彼らは集結しようとしていた。


             十二月三日 日曜日 午後七時三十一分(日本標準時)

                      日本 東京都八王子市高尾山西部 

               和モダン三階建一軒家〈一階・ダイニングルーム〉


 勇者と魔王のケンカから数時間後。破壊された家は完全に元通りに直っていた。

 その一階のダイニングテーブルには今、色とりどりの料理が並んでいる。ご飯にサラダにスープ、そして勇者の大好物のハンバーグとからあげ。

 しかし勇者はそんな美味しそうな料理には目もくれず、ある考え事をしていた。それはいかにして目の前の母親――最強の僧侶を魔王との決戦の場に連れ出すか、というものだ。

 はっきり言って、この最強の母親さえ連れて行けば、魔王との戦いで負ける未来が見えなかった。もはやキーマンを超えたキーマン……バランスブレイカーだ。なんとしても仲間に引き入れたかった。


「それにしてもお母さん嬉しいわ。こうやって勇者が一緒の食卓に顔を見せるのはいつぶりかしら? うふふ……お母さん、腕によりをかけちゃったわよ」

「う……そ、そうだね。僕も嬉しいよ、母さん」


 もちろん勇者には下心あってのことだ。だから良心の呵責からか勇者の顔は少し引き攣っていた。


「本当は魔王ちゃんも一緒にと思ったんだけど、いつの間に帰っちゃったのかしら?」

「あ、ああ。あいつはちょっと用があってさ」

「そうなの? 残念だわ」


 もちろん嘘だ。なんだか母親に申し訳ないことをしている気がしてきた勇者だった。

 しかしこのようなところで怯んでいる場合ではない。最強の僧侶をどうにかして勝負に連れ出す……勇者の頭の中にはもうそれしかなかった。

 勇者は思い切って話を切り出す。


「あ、あのさ母さん。ちょっと大事な話があるんだけど……」


 すると母親――美咲はにっこりと笑って、


「却下」

「なんでさ!? 僕まだ何も言ってないじゃん!?」


 すると美咲は箸を置いて言うのである。


「どうせ魔王ちゃんとの決戦にお母さんの力を貸してくれって言うつもりでしょ?」

「な、なんでそれを!?」

「さっき二人が話してたの聞こえてたのよ。お母さん、感動しちゃったわ。魔王ちゃんたら、あそこまであなたのことを気にかけてくれていたなんて……。健気よね。あんな無謀な条件を突きつけられても絶対に勝つなんて言っちゃって。……なのに、あなたという子は恥ずかしげもなくわたしに加勢を頼もうなんて……」


 美咲は顔こそにこやかだったが、その手が置かれているテーブルがみしっという異音でひび割れ始めていた。


「わ、わかったよ! わかったから、そのおっかない殺気を収めてくれる?」

「あらあら、うふふ。お母さんったら、つい。いけないいけない」


 美咲はそう言って殺気を収めると、テーブルを回復魔法で直していた。


「とにかく、子供のケンカに親が出て行くわけがないでしょ? 男なら自分の力で勝利を勝ち取りなさい。わたしはそういう風にあなたを育てたはずよ」

「……そうだね。その通りだよ。僕が間違ってた。ごめんなさい、母さん」

「わかってくれればいいのよ。さ、ご飯が冷めちゃうわ。いただきましょ」

「ああ、そうだね。……うん、母さんのから揚げ、相変わらず美味いよ!」

「まあ。嬉しいこと言ってくれちゃって。うふふ」


 そうして美咲を仲間に加えることは失敗したものの、二人は温かい団らんの夜を過ごしたのだった。


 楽しい夕食の時間が終わり、勇者は自分の部屋に戻ると、このようにのたまう。


「なーんて、さっきは母さんが怖くてとっさに話を合わせたけど、俺はまだ諦めちゃいないぜ。次は魔法使いのエイミーを勧誘しよう!」


 やはり最低な勇者だった。

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