第12話 静かな〝さようなら〟

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 鈴木しぐれの母は、できる限りの早い歩みで病院の院内を進んでいた。

 それは殆ど走っているのとは変わらないだろう。

 走ってはいけない、そう言われても、今はそんな約束事を果たして守れるだろうか。

 一週間前に――行方不明になった娘が見つかって、病院に運び込まれたと聞いて。

 街外れの廃ビルで、意識不明で見つかった娘は病院の検査では大きな怪我は無いと聞いてまずは、安心した。先程、娘の病室を聞いた受付では、意識を取り戻したことを聞いて、更に落ち着くこともできた。

 それでも、不安は尽きない。

 あの子は、本当に無事だろうか?

 元気な姿がただ見たい。

 そう思うのは、当然の親心だと思う。

 親か――彼女は自嘲する。

 果たして自分は良い親であると言えるだろうか?

 色々あったとはいえ、親の想いだけで夫と別れ、しばらくした後、息子が重い病気を患った時は、お金の問題もあったが逃げるように、仕事に打ち込み殆ど見舞いにも訪れなかった自分が。その間、息子を看つづけたのは、姉であるあの子だ。

 それらの事を、娘は自分なりに全部ひとりで抱えこんで、いなくなってしまったのではないか?

 彼女は今回の事を、そう感じていた。

 自分は、酷い親だと思う。

 あの子に色々なものを背負わせて。

 それでも、娘の無事を願った。


 そして、願わくは――これからの娘との幸せな生活を願った。


 そのためなら、どんな事も厭わない想いだった。

 今までそうできなかった分まで、今度こそは。


 娘の病室にたどり着く。本当は心のままに、急いで扉を開けたい気持ちを抑えてノックをしてから病室に入った。


 娘はそこにいた。検査服に身を包んで、ベッドの上で身を起こし空を、夜空に浮かぶ三日月を眺めているように――見えた。

 「しぐれ……」

 娘の名前を呼ぶ。

 名前を呼ばれた娘はこちらを振り返り、彼女を見た。

 彼女を暫く見つめて、不思議そうに首を傾げた。

 それから――彼女は言った。


 「あなたは……誰ですか?」

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