第33話葡萄の皮の色をしたキスマーク
私達は外出する前に顔だけは洗うことにして変わるばんこに洗面所で顔を洗う。
薫風が蛇口をひねり、お湯を出す。それは洗面所についた窓の朝陽に照らされ白い湯気が上がっていた。結構熱いようだ。薫風は柔らかそうなてのひらで顔をコシコシとお湯をすくい擦っていく。
排水溝へと流れていくお湯は白濁としていた。
手首をひねり蛇口を締める。蛇口が締まる「キュッ」と水の潤いを切るかのような音が聞こえた。
傍に持ってきていたタオルを薫風は手に取り、顔をポンポンポンと叩くように拭う。
そうしながら「次、順子さん。どうぞ。私は部屋に戻って化粧をしちゃいます。順子さんも化粧しますか?私の化粧品ですが」と言った。
「そうね。魔法の口紅しか私の化粧品と呼べるものは今は持ってないわ。でも今は外に様子を窺うのと食料調達のためだから、化粧はしないで出掛けましょう。あなた化粧をしないで外に出られる?」
薫風は顔を洗って化粧が落ちている顔を上げ私を見てこう言う「すっぴんでも大丈夫ですが・・・そうですね、まずは外の様子と食料を。私も顔を洗ったらお腹が空いてきました。習慣?ですかね?」
薫風のすっぴんの顔は化粧をしている時よりも白く、陶器のようであり、肌に透明な液体が万遍なく通じているようであった。
「あなた、化粧しないほうが可愛いわよ?」私はそう言うと薫風は顔を赤らめてしまった。ふと私は白雪姫が食べた林檎はこの頬のように赤かったのだろうかと童話の中身を思い出していた。
いやそれは深紫色だろう。ちょうど私の唇のような。
私も顔を洗うと、靴を履き外に出ていった。
外に出ると薫風が「朝陽は変わらないんですね」と言った。
「そうね、太陽に感謝ね」私はそう言い家の門を出た。
道路のあちこちに昨夜降った葡萄の皮の色をした雪がキスマークをしたかのように道路に薄く積もっていた。
家の前を一台のトラックが通る。
雪上を走るそれはいたって普通の軽トラックであった。私の前を通る時、車内で流れているラジオの音が聞こえた。
私はその時、この世界でも生活があるのだと、頭の隅で理解した。まるで音楽を理解するように。
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