第4話ルージュ

私は書き物机に向かいスタンドの電気を付ける。パチッとスイッチを押すと少し目が眩しい。

 先程コンビニで買ってきた空色のシャープペンシルと白色のノートを取り出す。ビニールから外し先ずは眺めてみる。

 空色のシャープペンシルは落ち着いた水色で可愛らしいプラスティックの光沢を放っている。握ってみるとペンの重みが少し感じられる。白色のノートは何の変哲もないノートだ。そこに走り書きをしてみる。ペンがするすると動く。薄い灰色のHBの芯の字で私は『雨の欠片を集めると小さな海』と書いた。

 中々綺麗な字で書かれたそれは近くで見ると水溜りのようで、やや遠目から見るとオアシスのようにも見えた。

 私は小説を書き始めることにした。題は何にしよう。

 『雨の日の七日間』私は題をそうすることに決めた。

 一週間、雨の降る中、明るくカフェや散歩道などで過ごす女性の話だ。

 私は書いている間、すごく落ち着きを感じていた。和室でしゃっしゃっしゃと茶を立てて抹茶を飲んでいるかのような。

 喉を鳴らすと、こくりと音がした。そんな静寂の中でも落ち着いてさらさらとペンを走らせていく。私は流れに乗っていた。

 ふと時計を見るともう九時になっていた。秒針が音を立てずに進んでいく。今日はこの辺にしよう。

 私はそう決め机を離れ化粧台へと向かう。

 今日は行かないといけない場所があるのだ。

 女子生徒が死んだ学校、その犯行現場へ。

 私はルージュを付けることにより魔法使いへと変身することが出来る。見た目は変わらないのだが魔法を使えることが出来るようになるのだ。普段は察知するだけで、私はアンテナの専門の様なものである。

 

 化粧台へ座り、黒色の口紅を手に取る。キャップを外す。

 中は夜の色、深紫色。

 そしてそれを口に伸ばす。

 チョコレートとコーヒーとバニラとラベンダーを混ぜた香りがした。

 私は唇をパクパクと上下へ動かし、上手く塗れているのを確認する。

 魔法の気が充溢していくのが分かった。私の中で魔法のお香を焚いているような気配。

 鼻から息を出す時、それらが微弱な波紋を満たす。その波紋は私にこの部屋にはただ私、一人なのを知らせた。

 息を吸い込む。外の雨の降った後の地面の匂いが鼻孔を突き抜けていった。

 私は口紅を化粧台へ戻し、長袖のパーカーを羽織り玄関へ向かった。

 ガチャリと玄関のドアを開けると午後九時過ぎの夜が目前にあった。

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