第6話体育館

 体育館は進入禁止になっており私はどうやって中へ入ろうか考えた。体育館の周りをぐるりと回ってみることにする。すたすたと歩く。

 今にも体育館の内部で殺人が起こっているような胸の動悸を感じた。パクリパクリと大きな口を開けたり閉じたりする丸い悪魔が私の心臓の中で産声をあげるように。

 私はその感触に顔を歪めると胸に手をやり深呼吸をした。

 胸が大きく動く。やがてそれは収まり混濁した闇の内部へ消えていった。

 体育館を一周回ってみたが他に出入り口は見つからない。

 仕方がないので私は入り口の封を切り、中へ入ることにする。

 ビリビリビリとテープが破ける音がする。私は素手でそれをもぎ取った。

 鍵は掛かっているのだろうか、鍵が掛かっていたらおしまいだ。ドアに手をやる。

 良かった、鍵は掛かってない。

 私はゆっくりドアを開けた。

 真っ暗闇である。

 中へと入ると後ろのドアがパタンと勝手に閉まった。

 私は魔法使いの能力として暗闇でもちゃんと視界が取れるようになっている。私はその能力を意識し、辺りを見回す。

 ちょうど舞台幕のカーテンに隠れて誰かがいるのが分かった。

 体育館の中は外で履いている靴で歩いては泥が付いてしまうだろうと思いそれを脱ぎ、私はそこへ向かう。

 体育館の床は若干ひんやりしていた。歩いて行くうちに気配が濃くなっていく、確実に誰かがいる。

女子生徒が殺された場所、舞台幕のカーテンへと近づく。私は舞台へ上がりカーテンをまくった。

 黒い髪を床に落としうなだれている少女がそこにはいた。首筋が月明かりのように青白く煌めいていた。それは日本刀の刃の光の反射のように目にちらつき、死神が微笑んでいるかのようであった。

 少女は死んでいた。私の目は霊を見ている。

「あなた、今日殺された女の子ね」私は話しかけた。

 うなだれた少女は顔を上げる。

 前髪の隙間から見えた顔は深夜三時の月明かりを浴びた向日葵のようで目元は涙で濡れていた。

「あなた、誰?私、死んでるの。誰も見えないみたい。でもあなたは私が見えるの?」少女はそう言う。涙で声がかすれている。

 私は時計を確認する。午後九時四十七分。

「私は女魔法使いの順子よ。いい?よく聞いて。死んでからあの世へ行くまで、つまり成仏のことだけど、成仏するまで死んでから二十四時間必要なのよ。それから勝手に成仏する。あなたそれまで待てる?」

「待てない、すぐに消えたい!」少女は泣きじゃくりながら大声でそう言う。

「あのね、成仏は消えるんじゃないの。あの世の世界に行くのよ。私は魔法使いだから直ぐに成仏させることが出来るのだけど、どうする?」私は少女を励ますように軽く笑みを浮かべた。

「あなたが魔法使いだってこと信じた訳じゃないけど、出来るなら、やって」少女はそう言って涙を拭った。

「わかったわ。今からあの世に行かせてあげる」

 そして私はまじないを唱え始める。

「赤い灼熱の炎燃やす地獄の檻、天へ導く宇宙の輪郭、あの世へ行け」私はそう唱えた。

 少女の体が透き通っていく。

 最後に少女はお礼を言ったようであった。それが僅かに聞こえた。


 さて少女はどこで首を切られたのだろう。何を使われて切られたのだろう。犯人は誰だ?

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