第28話異界
住宅地を横切りながら駅へと向かって私達は歩いて行く。
途中、大きな日本家屋が壁の向こうに見える通りにさしかかった。
「このお家、大きい日本家屋ね」
「そうなんですよ。こう大きいと憧れちゃいますよね。どっしりとしていて良いです。たしか、神崎さんと言った方のお宅だったかな」
「神崎?私の会社にも同じ名前の人がいるわ。もしかしたらその人の家なのかもしれないわね」私は先日、屋上から下りて来た時に会った神崎稔という男を思い浮かべた。
その男の顔を思い浮かべた途端、私に何かが降りてきた。何かがおかしいという事柄が。
私は立ち止まり、それについて考えてみる。
「どうしたんですか?順子さん。急に立ち止まって」薫風がそう言う。
「いえね、その私の会社の神崎という男なんだけど、何だかおかしいなと思って」
薫風は顔にハテナマークを浮かべて首を傾げる。
するとその日本家屋の入口から男が出てきた。
その男が出てきた時、私は『ああ、こいつがこの事件の犯人だな』と確信した。
その男は神崎稔であった。神崎稔は何気なくこちらを向くと私に目を留め、始め目を細め「ああ、順子さんじゃないですか。おはようございます」と言った。
「おはよう、神崎さん。あなただったのね女子高生を殺害している犯人は」私はそう言うと薫風はぴくっとした後、硬直し私の傍に来て私の左肘を掴んだ。
「この人なんですか?連続殺人事件の犯人は」薫風がそう聞いてくる。
「確実にそうよ」段々とその家の敷地の中のどこかの場所の上がくるくるとヘリコプターのプロペラのように旋回するような音が聞こえてきた。その音は徐々に徐々に大きくなっていく。
「何の音ですかこれは?」薫風が言う。
「駄目だわ、異界が開きそう。まさかこの場所だったなんて」
「異界ってなんですか?」薫風がまた言う。
神崎稔は素早い身のこなしで家の敷地の中へ逃げ込んだ。
私も後を続く。
家の敷地の中は広く右手に黒ずんだ木組みの倉があり左側に大きな家があった。
神崎稔は倉の中へ入っていった。
私は走って倉の前へ行くと横に開く扉が閉まっており開けようと手をかけると、どうやら鍵がかかっているようで開かない。
「開かない」私はそう言うとカバンからポーチを取り出し中から魔法のルージュを手に取りキャップを開き勢い良く唇に塗った。「綺麗に濡れたかしら?」私は薫風に聞く。
「はい、思わずチューしたくなるくらいに」
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