第46話日記

 ◯月◯日

 ピリピリと風が震える。私の目元のまつげに虫が止まるように風は中空に停止し使い捨てカメラのフラッシュのように白色が虹色に光る。空を見上げると水色に混ざりあった透明で雲が天空を物凄い速さで過ぎ去っていく。私は空にいるのか地面に這いつくばっているのか、分からなくなった。

 ここから日記を書き始める。ほんの思いつきである。私は私であった証拠をここに残したいと思いここに書き留める。誰だって日記を書く理由なんてそういったものだろう。

 今朝方、私の倉で死体を集めて撮られたフィルムを観ていた。中には体が欠けているものがあり、私はそこに人形の部分体を付けてみたくなった。私はその接合部が空洞に思える。非道くアンニュイで憂鬱気質な硝子の空洞に。丁度幼い頃に飛ばしたシャボン玉の中の空洞にも似たそれは今方ある空色のように水色で中は透明であり私はそこに吸い込まれる。


 ◯月A日

 今日、一人の少女を殺した。体育館で首を切りその首をバッグで持ち帰った。家の倉に帰りそれを開けてみると中からは濃密な墨で出来た川から組み上げた血で濡れた黒色の濡鴉の髪が見えた。それを私の手袋を付けた手でなぞるとするするとした手触りがした。

 倉の窓から月光が照らしている。私は電灯を落とし、そのまま二人っきりで人形とともにいた。

 やがて朝が近づき陽が出てくると私は人形の首の中身を抜き取り、ガラス管の中に入れ、水を入れ、空気を送る管を水の中に入れると、首が回転し始めた。

 それは月の満ち欠けのようであり、天体から放り出された私自身にも思えた。

 くるくる周る。

 くるくる回る。

 くるくる廻る。

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