第36話夏の異常気象

 薫風の家に帰り一階の食卓でコンビニで買ってきたものを食べていると薫風が週刊誌を読んでいた。

 私は新聞を読んでいる。新聞によると昨日の夜にかけて異常気象で紫色をした雪が降ったと書かれていた。それはこの町に限定されており、他の場所では降らなかったようだ。

 他にも不思議な事が書かれている。夜空に浮かぶ星が平常より大きく見えそれがキラキラと瞬いていたというのだ。いつもより四倍の面積で見えるそれは夜の町を普段より明るくしていたという。

 薫風が片手にメロンパンを持ちながら、もう片方の手に週刊誌持ちそれを覗き込んでいた顔を上げる。

「週刊誌では別段変わったことは書いてないですね。新聞はどうですか?」

 私は新聞で書かれていることを言うと、薫風は「やっぱり昨夜の出来事は異常だったんですね」と言った。

 私は先程淹れたコーヒーを一口飲み新聞を折りたたみ机の上に置いた。パサリと新聞が机に乗っかる音がした。

 未だ朝方で、外では蝉の鳴き声にとともに小鳥のさえずりが聞こえる。

 ふと私は薫風と二人きりで昨夜から生活をしていることに思い当たり、この家を愛の巣のようなものかな、と想像してみる。暫しそのことについて想像していたが、私らしくないなと思いその想像をやめる。

 薫風は週刊誌に顔を戻し相変わらず読んでいるようであった。向かいの席に座った薫風の顔が見えなかったが私はなんだか幸せな気持ちだった。

 恋は麻薬的だった。


 食事を終えると薫風がお風呂に入ると言い出し、新しい服を自分の部屋から取ってくるとお風呂のお湯を沸かすスイッチを入れた。

「順子さんも入りますよね?」

「あなたと一緒には入らないわよ」私はそう言う。

「いえいえ、私が入った後ですよ」

「それなら入ろうかしら、お洋服あなたのを貸してくれる?」

「制服を貸した時と同じようにですね?サイズは合いますでしょうか」と言って持ってきた洋服を私に両肩に合わせサイズを測っている。「ちょっと小さいかもしれませんが、一応着られると思います。私のクローゼットにあるもので好きなものをどうぞ」そう言っているとお風呂が沸いたという音声が響いた「それでは私はお風呂に入ってきますね」そう言うと薫風はお風呂場に向かっていった。

 私は二階の薫風の部屋に行くとクローゼットを開けて服を見てみる。その中からオレンジ色のTシャツとグレイのジーパンを取り出した。

 下着はどうしようかと考え、昨日のまま履いているのも嫌だったのでクローゼットを一つずつ開け、下着が入っている段を見た。

 女の子らしい可愛らしい下着がふわふわと舞い落ちた翌朝の新雪のように詰まっていた。色はピンクがかった肌色が多い。パンツは履けるがブラはサイズが合うのだろうかと私は考えブラを一つとり服の上からサイズを測るように付けてみた。少し小さいようだったのでそれを元に戻し、ブラは私が今着けているものを風呂に入ってもまた着けようと思った。

 私は薫風がお風呂に入っている間、暇なので小説を書くことにする。先程買った筆記具を袋から取り薫風の学習机に座り書き始めた。

 薫風の学習机の前面の窓の開かれているカーテンから黄色い透き通った陽射しが音もなくすり抜けていった。

 やがて薫風が濡れた髪にドライヤーを片手に持ち私のいる部屋に来た。

「順子さんお風呂あがりました。どうぞ入って下さい。夏場ですし汗をかいていると思うので、よーく体を洗って」この世界でもやはり夏場なのだ。

「ええ、服はあなたのを借りるわね」薫風はドライヤーを部屋のコンセントにつなぎ『ぐわぁー』という音共にドライヤーの音が鳴り髪を乾かし始めた。

「暑い暑い、エアコンと扇風機をつけようっと」薫風はドライヤーを風の出るままで床に置き、エアコンのリモコンへ手を伸ばす。エアコンの作動音がして冷気が部屋の中を循環していく。

 扇風機の首をひねり、スイッチを押すと薫風の濡れた髪がその水分で重たそうにゆらゆらと風で揺れていた。

 私は部屋を出て風呂場に向かう。

 若干湿った服を脱ぎそれよりも湿っている体に貼り付いた下着を剥ぎ取るように脱ぐと風呂場へと入った。

 シャワーの蛇口をひねると冷水を浴びてしまった。初めはびっくりとして踵が上がって爪先立ちになってしまったが、しばらくするとひんやりと気持ち良い水がぴたぴたと吸着し、浸透するようであった。その時初めて私はこの世界に浸透していくような心地になった。やがてそれも温かいお湯に変わり風呂場から入る朝陽を浴びて湯気が立つ。

 私は一つ幸せを逃さないような溜息をつくと口の中にお湯を入れた。

 お湯が口の中に溜まり溢れていく。私は下を向き全てのお湯を吐き出した。

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