第40話夏子

「そうね、この世界と私達が普段住んでいる世界を繋ぐ扉が開かれ、互いに行き来できるようになった。そしてその原因は私達の住んでいる世界の連続殺人事件が原因なの。更に悪いことにこの世界に連続殺人事件の犯人の意識が作用している、だから人形が生きていたり町を歩いていたりする」

「なるほど」女性はそう言うと右手で片頬をついて、左手でタバコを指で掴み、吸う。

「それからなぜかは知らないけれど、私の意識もこの世界に作用しているみたい」

「それは理由は分からないと」

「ええ」

「それであなたは魔女だけど、その女の子は?」

「林原薫風と言います」

「この子は殺人事件の被害者である生徒と同じ高校に通っている子よ。どうしても私について来るって聞かなくって」

「あら、可愛いわね」女性はそう言って「私は夏子よ、よろしくね」と言った。

 すると料理場から男がお盆を持った、男が現れ「夏子さん料理が出来ましたよ」と言いながら食卓へと入ってきた。

 テーブルの上にお盆を置くとその男も食卓に着いた。男は「いただきます」と両手を合わせて言うと箸を手に取り丼を片手で抱えて牛丼を食べ始めた。牛丼は湯気がホカホカと上がっていて嗅ぎ慣れていないスパイスの匂いがしていた。どこかそれは山椒の匂いに似ていた。

「さあ、あなた達もどうぞ」夏子がそう言う。「続きの話は終わってからにしましょう」

 私達はそれぞれ丼を自分の席の前に持ってくるとお盆の上に添えられていた箸を取り、牛丼を食べ始めた。

 やはり山椒の匂いがして、竹のような匂いもしている。不思議とそれらわ合わさりあい、ピリッとしているがスッキリとして如何にも和風であった。牛肉は脂身がつき薄みの肉であるが口に入れるとその脂身がギュッととろけるようでやわらかかった。牛肉の他には玉ねぎが入っていて玉ねぎは黄金色で歯で噛むとサクッと音がして中に詰まっている汁が溢れてくる。

 正直に言うと今まで食べたことがない牛丼であるが、とても美味しかった。

「この牛丼、今まで食べてきた牛丼の中で一番美味しいです!」薫風が一番を強調してそう言った。

「秘伝の牛丼なのよ。時々作るんだけどやっぱり私はここの料理だと一番これが好きかしら」と夏子が言う。「タレも肉も玉ねぎも凝ってるの。どんどん食べて」

 私は初めて来た他人の家なのに、なぜだか居心地が良いこの空間が好きになっていた。緊張感は確かに場にあったがそれは癒やしとも通じているように思えた。魂を奥底から持ち上げるような。あるいはそれは薫風と一緒にいるからかもしれない。そのことに気が付くと私は自分が彼女に恋をしているということをまざまざと見せつけられるようで、顔を赤らめてしまった。それを隠すように下を向くと、私は食事を進める。

 一緒に食べていた男が一番始めに食べ終わり「ごちそうさま」と言い、席を経つと丼を持ち料理場へと向かっていった。

 その次に薫風が食べ終わり「おかわりはありますか?」と聞いた。

「ええ、あると思うわ。どんどん食べてね」夏子はそう言うと薫風の空の丼を持って料理場の方へ向かった。

「あなた、いつも沢山食べるのね」私はそう言った。

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