第三章
第32話口紅の跡が付いた桜の花弁
真昼の神社の階段を上がると朱色の鳥居がありそれを通り抜けた。
その神社は季節が春なのか、桜の花弁が舞い落ちていた。
間近で見るそれはピンク色の血染めのようにうららかで、モナリザがか弱い少女になったように薄く微笑む。恋愛はじめの初めて自分に施す桃色の口紅、それを口に引き軽やかに歩き出すよう。それは恋愛の出口を求めてではなくその中間、恋愛の全ての始まりと終わりの間を示し桜の花弁はひらひらと地に着くまで落ちていく。
ここだけ時間の流れがゆっくりとしているように感じた。
ふと私の唇に花弁が落ちた。私は右手で唇についた花弁を手にとって見る。
私の口紅の跡が桜の花弁に斜めに付き、深紫色に染まっていた。私はそれをなんとなくポケットにしまった。
境内の先には紅い着物を着た若い女性が立っていた。女性は少し上に見える社殿の床にとまった小鳥を見ていた。
小鳥は動かないでいたが、ちらりと私達の方を向くとやがて飛び立ち私達の真上を飛んでいった。
若い女性はそれを見送るようにし、そして私達に目を留め「あら、いらっしゃい」と言った。その声はよく通る声で夜闇の紫色の陰影があった。
時は少し遡る。
私は寝ていた床から起き上がった。もう朝だった。カーテンの隙間から黄色の太陽光が入りチリチリと室内の闇を切り裂き同時に部屋中をぼんやり明るくしていた。
私はすごくお腹が空いていた。
薫風のベッドを見ると小さな音で寝息が聞こえ上にかかった毛布が僅かにそれに合わせ膨らんだりしぼんだりする。
私は自分の首を左手で掻くと料理を作ろうと思い、下の階へ下りていった。
冷蔵庫を開けてみる。中は空っぽで何も入っていなかった。
私は薫風を起こしてコンビニでも出掛けることにした。
二階の薫風の部屋へと戻り、ベッドで寝ている薫風に近より話しかける「朝よ起きて」それでも起きないので薫風の肩を揺さぶる。するとパチリと目を開けた。
「順子さん、もう朝ですか。おはようございます」薫風がほんの少し鼻声でそう言う。
「この家の冷蔵庫には食料がなかったからコンビニへ行きましょう」
「そういえばこの世界にコンビニなんてあるんですか?」
「行ってみれば分かるわ。取り敢えず家を出て食べ物を探しましょう」
「お金も通用するんですか?」
「それも払ってみて試しましょう」
「分かりました、今起きます」薫風はそう言うとゆっくり起き上がった。
髪の毛はボサボサで昨日着ていたワンピースも皺が少し付いていた。
「外に出る前にお風呂入っていいですか?」
「ごめんね、私お腹ペコペコなの」
「分かりました。付き合います」薫風はベッドから降りた。
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