第20話家庭的

 どうやらここは薫風の家のようで私はここに彼女に運ばれたようであった。服は着替えられて、白色の水玉が灰色がかった水色の色合いで囲まれた少しモコモコしたパジャマになっていた。

 目眩を起こして倒れただけであって、その後の私は普段通りであった。

 窓辺に隣接された学習机の上に林原薫風と名前が書かれた教科書が置いてあった。

 私は学習机に座り夜明けまでそこで過ごした。私の持っていたリュックサックがあったのでその中の単行本などを読みながら。途中で小説の続きを書くことにし、学習机の棚にあった白紙のルーズリーフをもらうことにする。そこに文房具立てから鉛筆を取り出して書いていく。


 カーテンが開けてあったので朝の陽差しがやがて入ってくる。段々とそれは黄色く濃くなり部屋中を満たしていく。後ろてから薫風の声が聞こえた。

「おはようございます。順子さん。もう大丈夫ですか?」

「ええ、大丈夫よ。突然倒れてごめんなさい。ここまで運んで看病してくれたんでしょう?ありがとう」私は振り返り笑みを浮かべながらそう言った。

「あの時、突然葬場が騒がしくなって外に倒れてる人がいるっていうので見に行ったら、順子さんで。タクシーを呼んで私の家まで運びました。非道い熱が出ていたようですけど、今は平気なようですね」薫風はそう言いくっついた氷が溶けて二つに別れるような少しとろけた笑みを浮かべた。

「あなた、今日も学校へ行くの?」

「そのつもりですけど、何かあるんですか?」

「また人が殺されたようなの。あなたの通っている高校ではないかもしれないけれど」

「そんな・・・またですか・・・とりあえず行ってみます」薫風はそう言い、部屋にかかってある焦げ茶色の木で出来たギリシャ数字の文字盤に白色の背景の時計を見上げた。幾分クラシカルな時計だ。「もう六時半ですか。ご飯食べて学校へ向かいますね。順子さんはまたお昼から来るのですか?」

「今日の夜中また出直すわ」

「そうですか。もしかしたらテレビでニュースがやってるかもしれません。順子さん机の上にあるリモコンを取ってくれませんか?」私は学習机の上に置かれてあったリモコンを手に取ると薫風に渡した。薫風が手に持ったリモコンのスイッチを押す。

 テレビを付けると朝のニュースがやっていた。特段変わったことはやっていない、いつもの朝のニュースである。

「私、コーヒーと食べ物取ってきますね。順子さんはここで待っていてください」薫風はパジャマのまま布団をのしのしと出てから部屋を出た。

 私は昨日のお昼から何も食べていないことに気が付くと緊張の息が抜けるようにお腹の空腹感がやってきた。何か食べ物を入れないといけない。しかし不思議と目は冴えている。


 十分ほど時間が経つと薫風が食事を持って戻ってきた。薫風は毛布をどけると部屋の奥から丸いちゃぶ台を出し、そこに食事を置いた。

「トーストにいちごジャムを塗ったものです。順子さんいちご食べられますか?」薫風は早速トーストに口をつけている。可愛らしい小さな唇が歯型を残しながらトーストを少しずつ齧っていく。

「ええ、食べられるわよ」私もトーストを齧る。他には二つのマグカップに入れられカフェオレがあった。白い湯気をあげているそれは朝陽に照らされごく一般的に脚色されているようであった。家庭的に見えた。

「ニュースはどうでした?何かうちの高校のことやってましたか?」

「いいえ、何もやってなかったわ。もしかしたら未だ遺体が発見されてないのかもしれない」私は自分で言って、随分不吉なことを言ってるなと思った。

 食事を終えてもニュースはABC高校のことに関しては何も報道しなかった。もしかしたらそれは朝のニュースに相応しくないからなのかもしれない。普段ニュースを観ない私はその辺の分別がつかなかった。


 薫風は制服に着替え終えると「それでは行ってきますね。もしかしたら順子さんの予想が外れているかもしれませんし。後、順子さんの制服はびしょ濡れだったのでハンガーで吊るして乾かしておきました」

「どうもありがとう、汚れたらクリーニングして返すからね」ハンガーに吊るされた制服を取ると私も着替えることにした。薫風は学校に、私はこの家を出て自宅に帰るのだ。

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