第26話夏の朝と青いラッキーストライク

 私は翌朝、自分の家を出ると天気は快晴で水色の中空に白色の繭を引っ張って伸ばして出来たような雲があった。私はそれを無思考で見上げると、よく振ったペットボトルの炭酸水がキャップを開けるとともに泉のように中身が湧き出すような快活な気持ちになった。

 女子高生とデートである。私は今日は魔法を自分にかけ、若返って女子高生になっているかというと、そうではなかった。

 普段の自分、二十九歳の自分に軽く化粧をし純白で出来た薄墨のような、朝陽に舞うホコリのような曖昧なヴェールを自分に被せた。それは見方によっては透明に見えた。それだけが魔法を使っていない自分にできる自己化粧だった。

 初デートの私は浮かれているのか、周囲のものがキラキラと輝いて見えた。通りの電柱や空を渡る小鳥、それらは太陽の明かりで内面まで透き通って見えるようであった。

 私は自分の中に新しいものが生まれているのに気付いた。それは硝子細工で出来た扉のようであり私の中の世界と繋がっているように思えた。

 初夏の暑さが身をくるみ、おでこから汗が出てくる。

 どこか胸がキュンとするようなその暑さに私は少しずつ溶けていくソフトクリームのような気分になった。


 未だ家の近所と言える場所を歩いていると、ふらりと男が前に現れた。

「やあ、順子。今日も暑いね」男は白色のつばが狭い帽子をかぶり、白いTシャツにニルヴァーナのバンドのマークがプリントされた服を着ていて、パンツはカラフルなアロハ風の緑色とオレンジ色がペイントされた半ズボンだった。

「あら、同僚の魔法使いさん。おはよう」私はそう言った。その男は私と同じ魔法使いであった。

「おはよう」男はそう言うと一旦口を閉じた。それからまた口を開き「この町で殺人事件が起こってることは知ってるだろ?」

「ええ、知ってるわ。現場にも行ったし」

「その事件のせいで異界が開きそうなんだ」男はそう言うとポケットから青色のラッキーストライクを取り出すとひとつを箱から取り出し口に咥えた。

「異界が開くですって?」私はそう言い、男はマッチをこすりタバコに火を付ける。

「ああ、そうなんだ。多分、今日、開く」男はそう言うとタバコの煙を鼻から吐き出した。

「これからデートだって言うのに最悪だわ」

「順子これからデートなのか」男はニコニコ笑いながら言った。

「そうよ。私はデートに行くから異界の出入り口はあなたが探して」

「分かった。一応探してみる。で、どんな男とデートなんだ?」

「可愛い女子高生よ」私はそう言った。

「ふーん、じゃあな順子。それだけだから」男はそう言うとくるりと後ろを向き去って行った。

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