第15話青

 朝の強烈な胸の内側を至福感で淡く包み、透明なヴェールから産声を元気溌剌とビブラート混じりのささやき声で、胸のパリッと張った鼓膜を刺激していくような熱情溢れる初夏の朝は過ぎ、ただそこにはのほほんと蒼い陰りを持った古から伝わるかのような木の葉をゆらゆらと揺らがす風を持った光が居座っていた。

 じんわりとクーラーの冷気が私の半袖から見える両腕に深く染み渡っていた。

 私は小説を書く手を止め、は手のひらで脈拍を数えるように手首を包むと休憩を取ることにした。

 しばらくその姿勢で目を閉じる。眠らないように気をつけながら。

 数分すると一度別の世界に飛んでいた私が実体持った状態で戻ってくるのが感じられた。私はそれをすんなりと受け入れこの喫茶店にあるケーキを注文することにする。

 どうやら十七歳の私は甘いものが好きなようだ。


 ケーキを食べ終わり時刻を確認すると午前十時四十分であった。この辺で家に帰って学校へ行く準備をしよう。

 私はそう決断し喫茶店を出た。

 店を出ると一瞬ブルーの陽射しが私の目尻を過ぎていった気がした。私はすたすたと歩く。

 

 家に着くと高校の制服に着替える。それは私の体のサイズよりやや小さくスカートは膝が隠れるくらいしか無い。運良く腰回りは丁度よい。ワイシャツは長袖が入っていたが私は自分の半袖のワイシャツがあることに思い当たり、それをクローゼットから出して着た。

 さて女子高生になっているだろうか。化粧台の前へ行ってみる。

 鏡に映った私はどこからどう見ても女子高生に見えた。完全なる女子高生に。

 元は二十九歳であるが。私はそこにおかしさを僅かに感じ首を傾げ笑みを作った。

 鏡に映ったその笑みは少々可憐であった。

 私は女子高生が持っていてもおかしくないようなカバンをと思い、リュックサックがそういえばしまってあった事に考えが及びそれを収納棚から取り出す。

 青がかった黒色のリュックでやや使い古されていた。私はそこに何となく教科書代わりに単行本三冊を入れる。

 最後にスマートフォンをちらりと見てポケットに入れた。時刻は十一時二十分だった。

 ここから学校まで歩いて三十分程である。昼休みは十二時四十分からであるから十二時に出れば良いだろう。私はその四十分間をただ座って待った。


 十二時ちょうどになり家を出る。


 学校に着くと入り口を守るように警察官が立っていた。暑いのか袖を肘までまくってある。

「君いまから登校かね?」その警察官が話しかけてくる。

「寝坊したんです」

「入りなさい」

 私はほっと胸を落ち着かせると学校へと入っていった。口の中は先程喫茶店で食べたケーキの甘い香りがしていた。

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