第10話メロンソーダとホットコーヒー(ブラック)

 店員が去っていくと私は「私にもその量を食べきれるかしら?薫風ちゃん」と聞く。

「きっと大丈夫でーす!結構多い量ですけどあなただったら大丈夫!」なぜ私なら大丈夫なのだろうか・・・。「それと薫風ちゃんではなく呼び捨てで薫風って読んで下さい。薫風という名前にちゃん付けは似合わないです!」

「わかったわ。薫風」口に出してみるとそれは店内の賑やかさに溶け込むようであった。

「それでね、薫風。私、明日あなたの学校に侵入してみることにしたの」

「えー!?それはどうやってですか?」薫風は眼差しが興味深げにそう言う。そうしてみると、薫風はテレビアニメと現実の境目に出てくる主人公のお供の灰色の仔猫のようであった。

 その瞳の虹彩に私は目を奪われる。

「あ、そうだ。私、ドリンクバーで飲み物取ってきますね。順子さんは何が良いですか?」

「いいのよ、私も取りに行くから」

「いえいえ、奢ってもらうのだし私が取りに行きます」どうやらこの娘は奢ってもらう気が満々のようだ。

「じゃあ、ホットコーヒーをちょうだい。ブラックでいいわ」

「わかりましたー」薫風はそう言うと席を離れていった。


「お待ちどう様」薫風がメロンソーダとホットコーヒーを持ってきた。メロンソーダは中に入っている氷でグラスが若干曇り、ホットコーヒーは湯気を上げていた。

「ありがとう」私はコーヒーに口をつける。中々悪くない味だった。コーヒーから口を離すと深紫色の口紅の跡がコーヒーカップに付いた。

 薫風はメロンソーダをストローで吸いながら、私のコーヒーカップを眺めていた。

「順子さん、深紫色の口紅ですね。ちょっと珍しい気がします」

「そうね。だって魔法の口紅の色ですもの」

「え?」

「ええ」

 薫風は目をパチクリさせる。まあ全てを話しても仕方ないだろう。私は口紅のことについては黙っていることにした。

「それで何の話でしたっけ?」

「明日、私はあなたの学校に侵入する、という話よ」

「ああ、そうでした。そうでした。それでどうやって侵入するんですか?教員としてですか?それとも事務員として?多分、順子さんは二十代ですよね?それならもしかしたら大丈夫かなー」

「二十九歳よ。生徒として侵入する」

「ちょっとそれは無理があるでしょう」薫風は少し笑った。

「魔法の力であなた達生徒の一員に化けるのよ」

「へぇ。魔法の力って万能なんですね。もしかして私にも生徒に見えるんですか?」

「ただ体が若返るだけ。それでなんだけど。あなた制服貸してくれない?」

「ええ、いいですよ。今の時期、着ているのは夏服ですけど冬服ならクローゼットにしまってあります。それで良ければ」

「それでいいわ。ありがとう」私はコーヒーをすする。やっぱり悪くない味だ。

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