第3章-5 Constellationの危機

 それとも、ツカサ君は店長とのパンケーキの発案で疲れているのかな。歴史モノパンケーキでの態度といい、変であった。そんなに変なことを僕は聞いたのだろうか?

 しかし、それだけではなさそうだ。ツカサ君の先ほどの差し入れの仕分けの時の態度がこないだのぬいぐるみと同じような顔だった。

 スバルからは天然と言われる僕だが、さすがにこういう違和感には気づく。何かおかしなものが混ざっていたのだろうか。

 そういえば、あのぬいぐるみはあれからカフェに飾ってあるから、怪しいものではなかったと思うのだけど、あの変な洗い方といい、……うーん。スバルに意見を聞くか。


「なあ、スバル」


「こないだの話ならまだ決めてないよ」


 あ、そういえばそれもあった。さっさと決めて欲しいが、今はそっちではない。


「いや、ツカサ君の態度になんか違和感を感じないかい?」


「そうか?手製と生ものにシビアなところは相変わらずだけど」


「うーん、なんというか不審物を見つけた特殊部隊の人みたいな」


「ユウヤ、そんな現場に出くわしたことあるのか?」


「い、いや、ものの例えだよ」


 そうか、スバルは気づいていないのか。僕もまだ確信は持てないし、ツカサ君が話したがらないのなら、無理には聞かない方がいいのか……悩むな。


 二人が出た後のR,sカフェ。レイカは残業後の軽い食事を取りに来店した。いや、食事だけが目的ではない。


「店長、ちょっとツカサ君を借りていいですか? ツカサ君の分の飲み物もオーダーしますので」


「あらあら、お手柔らかにね、レイカちゃん」


 店内は既に人は少ないが、二人は隅の席に座った。


「で、ツカサ君。どこまで気づいた?」


 レイカは改まって切り出してきた。レイカさんは既に気づいている、そう考えたツカサは正直に話すことにした。


「さすがに女性の勘は鋭いですね。テディベアあれですか?」


「ええ、手にした時にテディベアあれの背中に手で縫った跡があったのは見逃さなかった。自分に対する悪意は鈍感だけど、他人のはよくわかるからね。ちょっといい?」


 レイカは棚のテディベアを手に取り、手持ちのソーイングセットと爪切りを使って縫い目をほどくと、中から小さな機械を取り出した。


「手芸のテグスを使うとは巧妙よね。透明だから縫い跡目立たないし」


「それ、ぬいぐるみごと釜茹でにしたから壊れているはずです」


「そりゃまたずいぶん荒っぽい方法ね。これ、盗聴器かしら。まあ壊れていなくても、ここに置けばカフェの喧騒しか拾わないけど」


「目的はスバルさん、ですかね」


「恐らくはね。彼宛のプレゼントだったのでしょ?」


「前回は二人を不安にさせたくないのと、音楽に集中してもらいたいから隠していました。でも、もしかしたら限界かもしれません」


 ツカサは苦々しげな顔をして話を続ける。


「今日、チェックした差し入れの中身に不審なものが混ざっていました。犯人は懲りずに接触を謀っています」


「なんでわかるの?」


「俺の学校で起きたトラブルと似ているんです。犯人は同一人物かもしれません。まだ確証は持てませんが」


「それ、Constitutionの危機かもしれないわ。私も協力する。まずはそのトラブルの内容を教えて頂戴」



「その話、僕達も混ぜてくれないか?」


 ちょうどいいタイミングで僕達は合流できたらしい。ツカサ君とレイカさんが話し込んでいたところを僕はスバルと一緒に合流できた。


「ユウヤさん!」


「スバル君!」


 驚く二人をよそに僕達は近くの椅子を寄せてテーブルに割り込む。


「帰る途中でどうしても気になって、ツカサ君に聞こうと戻ってきたんだ。ちょうどいいタイミングだったようだね」


「ユウヤさんも気づかれてましたか」


「さすがに違和感が二度、いや、いつかの剣幕を含めて三度もあれば気づくよ」


「そうですか……。二人には音楽に集中してもらいたかったのですが」


 ツカサ君が残念そうに言うが僕は反論した。


「いや、そんな悠長なことは言っていられないと思う。今、スマホでその機械を画像検索かけてみたらそれはGPSロガーみたい。スバルの自宅を突き止めようとしたのは明らかだ。下手すると身に危険が及ぶ」


 事態は思ったより、深刻かもしれない。僕はある程度予想していたが、想定外の話を初めて聞かされたスバルは真っ青になっていた。


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