第2章-5 新たなる出会い

 良かった、今日はタイミングが合った。公園に到着したらバイオリンの人達が演奏しているのが見えた。テストなどもあったから二週間ぶりくらいか。

 やはりだが、コントラバスの人は昨日の『本能寺の変パンケーキ』発言を笑ってた人だ。あの人達はうちのカフェをよく利用していたのかな、気づかなかった。

 時間潰しなんて考えなくても、ここの演奏を聴いていよう。それだけでもラッキーだ。

 俺は素早く買ってきた弁当を平らげ、演奏に聞き入っていた。

「あれ?君はあそこのカフェの『本能寺の変パンケーキ』の子?」

 演奏が一通り終わった後、チラシかCDが無いかと近づいた俺にコントラバスのメガネ男子さんが話しかけてきた。と、言うか傷口にタバスコぶっかけるような真似をしなくても。

「ユウヤ、そんな、ストレートに言わなくても。」

 バイオリンの人が嗜めるが、ユウヤと呼ばれたコントラバスのメガネ男子さんはなおも続けた。

「いやあ、だって面白かったからさ。本能寺の変とパンケーキなんて発想なかなかいないよ。きっと新しモノ好きの信長が食べようとしたパンケーキを光秀がケチつけたのがきっかけで対立して、光秀はパンケーキを憎むようになって『敵は生クリームの中にあり!』とか言って…」

「ユウヤ、話が長い。」

 バイオリンの人が突っ込んでくれたので、コントラバスのメガネ男子さんのマシンガントークが止まった。店長と似たタイプの人なのかもしれない。って、まさかこの人もオネエ言葉を言うのか?!い、いやそんなことはないよな。

「確かに本能寺の変と言ったのは俺ですけど。顔、覚えられてしまったんですね。恥ずかしいな、お二人はあのカフェをよく使うのですか?」

 黒歴史というには日が浅すぎるそれを、公衆の面前で暴かれしまい、内心悶えつつも俺は尋ねた。

「いや、昨日が初めて。女性ばかりで気後れしたけど、パンケーキが美味しそうだったから。」

 言葉を継ぐようにバイオリンの人が続けた。

「僕は甘いのが苦手だから、コーヒーだけにしたけど、水出しコーヒーが美味しかったね。」

「ありがとうございます。あれ、うちの店長のこだわりの特製なんです。」

 俺は自分のことを褒められたように嬉しくなって頭を下げた。元々はコーヒー好きな店長が始めたカフェだったけど、パンケーキがインスタで拡散してからはパンケーキがメインになってしまったのだ。ちゃんとコーヒーを評価されたのは自分がバイトしてからは初めてだ。俺も店長のキャラはアレだと思うが、彼の入れるコーヒーは絶品だと思っている。

「そうか、今日もあのカフェでバイトなのかな?」

「はい、3時からです。ところで二人は何かCDとか出していないのですか?」

 俺が尋ねると、二人はちょっと困ったように顔を見合せた。

「ごめん、CDはまだできていないんだ。それにここは営利目的の活動は禁止だから。」

 俺は残念に思った。CDがあればいつでも聴けると思ったのだが。

「じゃあ、ユニットのリーフレットはありますか?」

 またも二人は申し訳なさそうな顔になった。

「あ~、ごめん。それも作ってないわ…。」

 活動歴が浅いのかな?いや、俺が入学した頃から演奏が聴こえてきたから少なくとも一年以上していたはず。趣味の範囲なのかな?

「二人とも音楽活動するならチラシ作った方がいいですよ。ここでCD販売が難しくてもネットで売ればいいし。」

 その時、時計台の時報が3時を知らせた。あれ?3時?まずい!

「あ、3時だから失礼します!俺、ツカサと言います!またカフェに来て下さい!」

「うん、わかった。俺はユウヤ、こっちのバイオリンがスバル。時間が合えば行くよー。」

 俺はカフェまでダッシュしていった。あの人達はスバルさんとユウヤさんと言うのか。活動に口出ししちゃってウザがられなかったかな。

 って、3時5分だ、やべえ遅刻だ!

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