第2章-4 アンチョコは正直

「はあ、終ったぁぁ!!」

 チャイムが鳴り、中間テストが全て終了した。昨日バイトに出ながらもアンチョコを作って覚える突貫工事一夜漬けと言う方法でなんとかこなした俺はため息つきながら、テストを回収して先生に渡した。

 俺は成績は悪くはない方だが、そこから上へはなかなか伸びない。もうちょっと上がれば進路も選び放題で悩まなくていいのかとも思う。親は塾へ通えというけど進学すると決めた訳ではないし、バイトできなくなるのも嫌だしなあ、とグズグズしている。

 ちなみに日本史は出題範囲が戦国時代ではなく、鎌倉時代と室町時代だった。ちくしょう、それなんて承久の乱、後醍醐天皇だ。お前も六波羅探題にしてやろうか。ダメだ、まだごちゃごちゃしてどっかの悪魔系バンドが頭にいるようだ。席に戻った俺は疲れて机に突っ伏した。

「おーい、ツカサ。今日で中間テスト終わったし、これから飯食ってカラオケ行かねえか?」

 アズマがネギシ達と固まって俺の方に向き直って声をかけてきた。突っ伏した頭をゆっくり上げて俺は答えた。

「悪りぃ、今日バイト。」

「あれ?今日は夕方5時からって言ってなかったっけ?」

 アズマが不思議そうな顔をして尋ねてくるが、俺は言い訳を考えながら言った。

「いや、急遽早く来てくれって言われててさ。なんか知らんが、パンケーキがTwitterやインスタで拡散されて客が増えてていろいろ仕込みをしたいから手伝えって。」

「あ~、確かにあれ、インスタ映えするからな。俺には甘ったるそうで無理だが。じゃ、また空いた時に行こうぜ。」

 アズマ達は納得して、教室を出ていって俺はほっとした。バイト自体は嘘じゃない。しかし、実は今日のバイト開始時間が3時からだ。今はテストが終わったばかりの12時だからまだまだ時間がある。じゃ、なぜ断ったのかって?俺はカラオケが苦手なのだ。

 正直言ってなんとか48系はグループが多過ぎて区別が付かないし、歌えない。そういえば、聴く音楽はインスト系が多いな。これじゃ仲間と話が合わないし、カラオケでは歌えん。

周りを見渡しても高校生でインスト好きはあんまりいないからなあ。仲間内では放送部のネギシがBGMを校内放送で流す関係でインスト系のCDを豊富に持っているから、そのCDをちょくちょく貸してもらえるが、他の奴は皆アイドルやらボーカル入りのバンドが好きだよな。ま、それが普通で俺はちょっと少数派マイノリティーだし、周りとは音楽の好みが合わないと自覚しているから別に構わないのだが。

「ちょっと早くバイト入るか、それとも公園でポケモン拾って暇潰すか。」

 その前に公園のワゴンで弁当買うかなあ。アズマ達と鉢合わせないように、ちょっとここでカバン整理して時間稼ぎしてから教室を出るか。

 そう思った俺は突っ伏していた再び頭を上げ、カバンを机の上に置き、要らないプリントや終わった科目のアンチョコや教科書を取り出し始め、教室を出る準備を始めた。


 あっ。


 カバンの中の日本史アンチョコに目が行った。

 そこには「承久の乱 後鳥羽上皇 1221年」の文字。なんてこった、後醍醐天皇じゃなく、後鳥羽上皇だったのか。あんなに直前まで見つめていたのに、記憶からなぜ落ちるんだ。少なくとも1問は×だ。うわ、なんかすっげえ悔しい。

「くわぁ~!!」

 ちくしょう、昨日の本能寺の変発言といい、やっぱり疲れてんのか。俺は片付けする気も失せてカバンから取り出したそれらを机の中に適当に突っ込み、公園へ向かった。

 もし、あの人達が演奏していたらゆっくり聴けそうだ。昨日はカフェにいたし、今日はタイミングが合って演奏してるといいな。あの楽しそうな演奏を聴いて昨日からの厄を落としてやる。

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