第2章 -2 R,s cafe

「いやあ、悪いわねツカサくぅん。テスト中なのに無理言っちゃって、6時まででいいからさ。タカバタケ君が風邪ひいたとか言うのよぉ。ほら、うちは飲食業だし、接客するからお客に移すと悪いしぃ…。」

「理由はわかりましたから、店長。着替えに行きますね。」

 おネエ言葉でマシンガントークかましてくる店長の口撃をかわしつつ、俺は着替えるために更衣室へ向かった。

 ここは俺のバイト先の「R,sカフェ」。高校の近くと言えば近く、つまり先ほどの翡翠の森公園沿いにある個人経営のカフェだ。ここでバイトを始めてもう半年近くになる。最近は店長からも信頼を置かれてるのか、今日のようなヘルプを頼まれたり、メニューの相談も受けるようになってきた。

 帰宅部だと家に帰ってもすることないからバイトとなるのは至極当然のことだ。高校には届を出せばバイトOKなので何ら問題はない。それに高校の近くだけど友人達が来ないのも楽だった。なぜなら、ここは女性向けのパンケーキやらインスタ映えするパフェなどを扱っているオシャレカフェだからだ。

 店長にすればそういうつもりはなかったらしいが、インスタで拡散されて女性客が増えたらしい。

 実際に俺のバイト時間内に店内にいるのはインスタやFacebookに上げようとしている女性グループや、彼女に引きずられてきたと一発でわかる彼氏という組み合わせのカップルのみであり、男女比率は男1、女9という驚異的な割合だ。

 まあ、別に甘いもの頼まなくてもコーヒーだけとか、パスタやサンドイッチと言う注文ももちろん可能だが、こんな女性ばかりの甘い空間にむっさい男子高校生は来れるはずがない。だから友人が入り浸る恐れもない、おごれとか言われないし、高校から近いから通うのも楽だし、いろいろ便利なバイト先であった。

 それにこんなにたくさん女性が来るのなら、出会いがあるかもしれないという男子高校生らしい下心もあった。校内の女子は本当に数が少なくてほとんどがカップル成立している激戦区なのだ。カップルになってないフリーの女子は…まあ、いろいろな理由があるが俺は無理だ。やっぱりさあ、彼女欲しいじゃん?

 でも、いざバイトしてみると現実って厳しいと思い知った。カップルは対象外なのはもちろんだが、インスタ女子は目の前のパンケーキを如何にきれいに撮るか、すぐにアップしていいねがいくつ付いたかということに夢中で、俺のことは目に入らないようだ。

 それに、平日の客は近くの会社員ばかりだから年代が合わないし、土日はカップルばかりだ。しかも、スタッフは俺を含めてみんな男で固められている。これもバイトしているのに出会いが無い理由の一つだろう。女性スタッフがいないのは店長曰く「たまたま」らしいが、店長のおネエ言葉などからして、意図的に男性のみにしている疑惑も捨てきれない。でも、バイト代いいんだよなあ…。

「パンケーキは甘くても現実はしょっぱいよなあ。ま、バイト代のためと。」

 聞かれないようにぼやきながら、俺はエプロンをつけて店内に入っていった。

「ツカサ君、悪いわね。これから戦場ピークタイムよ。心して動いてね。」

「了解です、店長。」

 この日の出来事、いや黒歴史が人生が動くきっかけとなったのだが、俺はまだ知る由もなかった。

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