第2章-8 俺、マネジメントに目覚める
俺は二人の連絡先を交換してもらい、演奏スケジュールは教えてもらえることになった。バイトや学校の関係があるが、これで聴きに行ける回数は増える。
そして、彼らのHP制作を手伝うことになった。パソコンは詳しくないが、とりあえず、ブログとTwitterとFacebookを作れば少しはPRになるはずだ。リーフレット作成も安い所があるし、何とかなるだろう。
俺はあの音楽は大好きだし、少しでも彼らを知ってもらいたい。それだけなのに自分にこんなに積極的に動く力があるとは思わなかった。部活だってすぐ辞めて帰宅部だし、バイトだって金を稼ぐという目的で続いているようなものだ。なんでこんなに熱くなれるのだろうな。
「ツカサ、何をやってんだ?」
学校での昼休み、スマホを使ってブログを更新しているとアズマが話しかけてきた。
「ああ、ちょっとな。とあるバンドのマネージャーもどきというか、サポートを少々。」
「ふうん。って、お前進学希望だろ?そんな暇あるのか?」
俺はギクリとした。一応、地元の大学へ進学希望を出したし、夏期講習も申込み済みだ。しかし、いまひとつ気乗りしない気持ちも嘘ではなかった。俺は逃げのために彼らの音楽にのめり込んでいるのだろうか?
否!!そんなことはない、俺は本当にあの音楽が好きなだけだ。俺は心の中で
「ああ、もどきだからな、そんな本格的なものじゃない。で、アズマはひたすら部活でスポーツ推薦狙いだろ?」
更新を手早く終えて、スマホのブラウザを閉じながら俺は答えた。
「おうよ、でも連日部活なんだよな。朝練に放課後部活、夏休みも部活、推薦取るためとは言え、疲れるぜ。いいことないかな。」
「差し入れ禁止になったしな。」
アズマの顔が曇った。しまった、これはタブーだった。って言うか、俺も巻き込まれたのになんたる大失言。
「ありゃ…無いわ。あんなんなら、モテないって嘆いてる方が一万倍マシだ。」
ため息をつきながら、アズマは頭を振る。
「思い出させてごめん。」
俺は慌てて謝罪した。
「いや、構わん。」
その時昼休み終了のチャイムがなり、クラスメートが戻り始めたため俺たちも席に戻ったため、そこで話は終了となった。
「いやあ、ツカサ君のおかげでリスナー増えてきたかも。」
期間限定メニューのはずが、意外と好評で通常メニューとなった『信長』パンケーキをパクつきながら、ユウヤさんが幸せそうに言った。はあ、なんだか黒歴史が好評って、好評って…ううう。
「というか、お二人が演奏のこと意外に無頓着過ぎたんですよ。」
「まあ、あそこは許可が緩やかな反面、営利目的の活動禁止だからね。最近は僕はあまり来れなくてスバルに任せきりだったし、それはちょっと申し訳なかったけど。」
「そこはひねりを効かせるんですよ。URL入れただけのリーフレット置くなら営利目的にならないでしょ。その先にアクセスさせたネットでCD売ればいいのだし。」
「ツカサ君は頭いいねえ。」
ユウヤさんはのんきな所があるなあ。それにしても…俺は時計を確認しながら彼に尋ねた。
「ところで、スバルさんはまだ来ないのですか?」
ユウヤさんがパンケーキを半分食べ終えた頃になっても、スバルさんは来なかったので俺は気になって尋ねた。
「ああ、多分サインしてたり差し入れもらってるから遅くなってる。あいつ、モテるからね。僕はパンケーキが食べたいから、一足先に来ちゃったけど。」
「あ~、確かにモテそうですね。」
スバルさんはスラッとしたイケメンだから、固定ファンが付き始めているようだ。ってか、こないだも考えたがスバルさんがここの常連になったら、インスタ女子の関心はそっちへ向くだろうから、ますます俺の春は遠くなる。いや、もう出会いを求める考えは捨てた方がいいのか。そんなジレンマを抱えていると、ドアベルの音が鳴ってスバルさんが入ってきた。
「やあ、遅くなっちゃった。」
「スバルさん、いらっしゃい。水出しアイスコーヒーでいいですよね。」
「ああ、頼むよ。」
スバルさんは両手に差し入れとおぼしき箱や袋を抱えている。
「こりゃまた、差し入れずいぶん貰いましたね。」
ちょっと冷やかすように俺は話しかけた。
「あ、ちょっと整理させて。ここでは食べないからさ。」
「じゃ、俺もチェックさせてもらいます。えーと、これはダメ、これもダメ、これはセーフ。このチョコは溶けてるけど、冷蔵庫に入れて冷やし固めればセーフかな。」
俺はチャキチャキと仕分けていく。中でも手製はダメだ、いろいろ危ない。
「はい、仕分け終了。これらは生物やお手製の物は食中毒の危険があります。始末は俺がしておきますね。」
「えええ~、ツカサ君の検閲厳しい!」
「ユウヤ、そこは検閲じゃなく検疫じゃないか?」
スバルさんがツッコミを入れるが、俺は構わず続けた。
「当たり前です。梅雨も終わりの時期です。気温も湿度も高い時、しかも昼間に貰った差し入れなんてサルモネラ菌なりブドウ球菌の天国ですよ。仮にも食品扱ってるバイトしてますからね、こういうのは敏感なんです。」
「でも、せっかく心を込めて作ってくれたものを捨てるのはなんだかなあ。」
スバルさんは名残惜しそうに言うが、俺は強く畳み掛けた。
「とにかく、手製は特にダメです!こもっているのは心とは限らないです!」
思わず大声を出してしまったためか、店内が一瞬静まる。
「あ、ごめんなさい。とにかく、食中毒の危険がありますから、これはこちらで処分します。」
俺は謝り、該当の物を抱えてホールの方へ移動した。
「ツカサ君、すごい剣幕だったね。何かあったのかな。」
ツカサが去った客席、スバルとユウヤはツカサの事を話していた。
「わからない。確かにツカサ君の言うことは理に叶っている。でも、それにしては気迫が普通ではなかったな。」
彼は彼なりに何かあったのだろうと、二人は結論づけるしかなかった。
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