第2章-7 俺、ストリートバンドの人達と親睦を深める
結局、その日は雨が止まなかったこともあり、客足は回復しなかったのでバイト時間中はずっと二人と話をしていた。たまにはこんな日があってもいい。店長だってユウヤさんと…パンケーキネタで盛り上がってるし、まあ、客としゃべっていても大丈夫だろう。
ユウヤさんは甘いモノ好きみたく、美味しそうに本能寺の変パンケーキ改め信長を食べている。ううう、黒歴史を目の当たりにするのはしんどい。
スバルさんは甘いモノ苦手と言うことで、パニーニセットを注文した。
「へえ、そこの高校の二年生なんだ。」
「ええ、理系だから女子がほとんどいないから、ここで出会いないかな~って。」
「ははは、確かにこのカフェはオシャレだから女子率高めだよね。」
スバルさんは爽やかに笑いながらコーヒーを飲んだ。イケメン、バイオリン上手い、コーヒーを飲む仕草も様になっている。この人がカフェの常連になったら、女子の注目を集めてしまいそうだな、ますます俺の彼女を作る計画が遠のきそうだと思う。でも、この人だったら仕方ないかな、俺とはいろいろ持ってる物が違いすぎる。
「ある意味クラスの野郎には来づらいから、競争率低いと思ったんだけどなあ。現実はみんな目の前のパンケーキに夢中なんですよ。ところで、二人は音楽活動長いのですか?」
「バイオリン自体は小さい頃からだよ。ユニット組んだのは専門学校入ってからだから、まだ一年経ってないかな。」
「このまま音楽でやっていくのですか?」
「う、うーん、いや、就職かな。どうだろう。」
俺は何気なく尋ねたのだけど、スバルさんは目を逸らし、歯切れ悪そうに答えた。聞いちゃいけないことだったのかな。
「そっかあ、あの音楽好きだから、もっと聞いていたいけどなあ。」
「ツカサ君は進路決まってるのかい?進学かな?まだ高2なら未定かな。」
今度は聞かれたくないことを聞かれてしまった。俺は言葉に詰まる。
「い、いえ、まだ未定です。あちこちから発破かけられてるのだけど。」
俺はバイト中にも関わらず、ため息を付いてしまった。
「やりたいことを見つけないと将来ブラック企業だと脅されても、やりたいことが見つからないんです。」
「そっか…。」
「友人のアズマはスポーツ特待狙ってるし、ネギシは東大行くと言ってるし、タジマは県庁に就職すると公務員試験の勉強始めたのに、仲間の中では俺だけが宙ぶらりんなんです。」
思わずこぼすと、スバルさんは目を伏せた。しまった、しゃべりすぎた。知り合って間もない人に愚痴って気まずくさせてしまった。なんとか話を反らさないと。
「ま、いざというときは親のアドバイス受け入れて地元の大学行きますよ。ところで、コーヒーのおかわりいかがですか?雨の日サービスでお代わりは半額で提供なんです。」
「ああ、貰うよ。」
彼と同じくおかわりを希望したユウヤさんのカップも回収し、いったんカウンターへ戻る。俺もそうだが、スバルさんも進路に迷いや葛藤があるのだろう。でも、俺と違ってあんなに打ち込んで音楽活動しているから、俺よりも道がはっきりしていて充実しているように思ってたのだけど。
「あの、演奏スケジュールって決まってるのですか?俺、タイミング合わなくて毎日公園を帰りながらチェックしているんですよ。HP持ってないんですか?検索しても全然出てこなくて。」
おかわりのコーヒーを置きながら、俺は二人に尋ねた。
「えーと、それも作ってないんだ。」
スバルさんが申し訳なさそうに答える。それってダメじゃん。
「…ダメですよ、二人とも。」
「え?」
「CDは無い、HPも無い、リーフレットも無い、無い無い尽くしじゃないですか。俺みたいに聞きに行けない時にCDが聞きたいと思ったり、スケジュール合わせてライブ行ったりしたい人のことをもっと考えてくださいよ。」
俺はまたもまくし立ててしまった。あの音楽はもっと知られるべきだ、なんでこんなに消極的なのだろう。なんだかもどかしい。それとも趣味の範囲なのかな。
「そもそもユニット名も俺は知らないです。何て名前なんですか?まさかそれもないとか?」
畳み掛けるとパンケーキ食べ終えたユウヤさんが口を開いた。
「いや、さすがにそれはない。って、なんだっけ?スバル。」
本日二度目のズッコケになってしまった。本人達も知らないんかい!頭を抱えているとスバルさんがツッコミを入れた。
「ユウヤ、さすがに覚えておけよ。Constellationだよ。」
「こんすてれーしょん?」
俺がちょっとマヌケな感じで復唱すると、スバルさんは説明を始めた。
「直訳すれば星座や配置。一見無秩序な物が、ある時から意味を持って配置されたように見えることだよ。」
「スバルの名前も星座由来だしね。ぴったりだよね。」
ユウヤさんがおかわりのコーヒーを飲みながら、合いの手を入れる。
今日はいろいろ波乱の日だ。テストはいまいちだったし、黒歴史更新確実のパンケーキは作られてしまったが、あのユニットの方達と知り合えたし、名前も知ることができた。
Constellation、かっこいいな。
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