第3章-9 緊急事態
何曲か演奏し中盤に差し掛かった頃、レイカさんがキョロキョロし始めたことに気づいた。その様子からして何かを探しているようだ。
そして何かしきりに僕達へ向けて合図らしいものを出している。特に取り決めはしていなかったはずだから意味が分からなかったが、ユウヤは何か気づいたらしく、曲が終った後、耳打ちしてきた。
「スバル、一旦演奏を終わらせよう」
まだ演奏する曲目があるが、先ほどの合図と関係があるのだろう。
急遽、しばらく休憩を取る旨を告げると聴衆達は散らばっていった。そのタイミングでレイカさんが僕達の方へ駆けつけてきた。彼女がひどく慌てているのは見た目から明らかだ。
「あの
単独行動?
「多分見つけたのよ、例の子。追いかけたのかもしれないわ。男子とはいえ、危険なのに」
「直接対決しようって訳か。先走ったな、
「きっとそうよ、まずいわ。当初の作戦と違ってきちゃう」
直接対決?作戦?一体何の話だ?
「ちょ、ちょっと待って二人とも。話が見えないのだけど」
話が急展開過ぎてついていけない。僕が戸惑っているとユウヤが説明を始めた。
「ストーカーならば、数日ほど中断しておいて会えなくなった後、大々的に宣伝して再開すればその時に絶対に来るだろ? そこを捕まえて学校に突き出す作戦だったんだ。ツカサ君を変装させたのも例の子を油断させるためだ。本来なら彼女の天敵であるツカサ君は高校で夏期講習を受講中だからいないと思わせておいたんだ。同じ高校ならある程度動向掴めるだろうから裏をかいた」
「な……!」
「現行犯に加え、ぬいぐるみや菓子と併せて公園の監視カメラ映像などのデータを揃えれば俺たちのライブに度々来ていた……ストーカーの証拠の一部になる。警察へ突き出すわけじゃないからそれで充分だったんだ」
なんてことだ、僕の知らない所で危険な作戦が行われていたことに
「そんな……、そんな危険なこと! 僕は望んでいない!」
僕はそれだけを言うのが精一杯だった。
「反対するのはわかっていたからスバルには黙っていたんだ。こんな状態を長く続ける訳にはいかない。それに人手があるのはレイカさんとツカサ君の夏休み期間中だけだから短期決戦を狙ってたのだけど。とにかく、今はツカサ君を急いで探さないといけない」
「わかった。三人で手分けして……」
「いや、スバルは単独じゃまずい。ツカサ君が見失って例の子が単独行動しているかもしれない。俺と一緒に捜索しよう」
「……分かった」
「その前に二人は機材を片付けていて。放置するのは危険でしょ。私は先に探してくる。公園内に居ればいいけど、本当にもう!」
怒りながらもレイカさんはものすごいスピードで駆け出していった。
ツカサ君は男子だからある程度大丈夫だとは思う。しかし、相手は何をするかわからないし、ナイフなど万一持っていたら……。
「ツカサ君、無茶だけはしないでくれ」
僕は急いで片付けながら考えを巡らせていた。この公園はかなり広いから、レイカさんや僕達だけではすぐに見つけられないだろう。直接対決する気なら人気の無い所だろうけど、この公園は道路で四方を囲まれているから人気の無いところは少ない。あったとしても防犯カメラがあるから死角は無いはずだ。
……待てよ。
「そうだ! あれならば、わかるかもしれない!」
僕はあることに気づき、居ても立ってもいられなくなり駆け出した。
「スバル! どこへ行くんだ!」
ユウヤの声が後ろから聞こえる。
「悪い! あとで連絡する!」
僕は振り向かずに返事をして走り続ける。
ユウヤ、ごめん。僕が原因なのに僕だけが何もしないなんてできない。皆に守られているだけでは嫌だ、僕も皆を、何か助けないと。
僕は走る、全力で走る。きっと生涯の中でも断トツの速さだ。突然走ったからか脇腹が痛むがそんなことを気にする時間などない。
早く、一刻も早くあそこへ行かないと! 頼む、間に合ってくれ! 僕のせいで周りの人が傷つくのは嫌だ。そうだ、彼女にも知らせないと!
僕は走りながらスマホを出し、レイカさんへの電話番号をプッシュした。
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