第31話 自殺マニア

「やぁ、山梨君。起きているかい?」

その夜ベッドで寝ていた僕はそんな一郎君からの携帯電話で、起こされた。

「あ、一郎君?どうかした?」

「こないだの澤田さんの遺書を読んだのだけれどね。彼女をどうやら自殺ではなく、他殺のようだよ」

「え?」

驚いて僕は飛び起きた。

「なんで!?」

「彼女は自殺する予定もなかった。あの遺書だとされるものは、気持ちを落ち着けるために書いていたのか、僕には分からないけれど。  あの日彼女は学校の屋上から飛び降りたそうだ。僕はあの後彼女の学校の屋上を見た。屋上には高く網が貼られていて、一人でわざわざ飛び込むのは少しだけ引っかかってね。僕は彼女が死んだ日について、彼女の学校で聞き込んできた。根掘り葉掘り聞こうとした僕はひどく生徒や教師に見られていたよ。僕のこの美しさならば、仕方がないけれど」

「それで?」

「聞き込みでたいしたことは分からなかった。けれど被害者の遺体は雨でもないのに、濡れていたそうだ。何故だと思う?」

「全然わからない」

「誰かが遺体に水をかけた可能性が高いだろうな。何故そんなことをする必要があるのか?」

「いじめだからじゃないの?」

「山梨君の言う通り、その可能性もある。では虐めではないとすると、もう一つの可能性は?」

「全然わからない」

「死んだとき身近に誰かがいたという可能性だ」

僕は驚いた。確かにそうだ。

「僕は一つの可能性に行き当たり、被害者の学校の教師に聞いてみた。彼女を虐めたという生徒は、いじめを認めたのか?教師は認めたと言っていた。だから教師に聞いてみた。いつごろその生徒が、いじめを認めたのか?すると事件のすぐあとだということだった」

「その生徒も反省したんじゃないかな?」

「確かにその可能性もある。だが複数の生徒が一斉に事件後にいじめをしたと虐めたそうだ。まるで示し合わせたという感じに」

「・・・・え、どうして?」

「ここからは僕の推測だ。彼らは彼女の死を虐めが原因だということにしたかったのかもしれないな。

あの事件の日、屋上の鍵は彼女とは違う人間が持っていたそうだ。澤田さんを一人残して、皆屋上を去ったそうだよ。僕が彼女が他殺だと確信したのは、飛び降りた彼女の上履きの片方を履いていなかったからさ。わざわざ片方を脱いで自殺はありえない。警察はいじめのせいだと断定したそうだけどね」

「どこからその情報を?」

「百合先輩の探偵と僕の聞き込みと、峰彦の社長の意見さ。また事件を解決すると、峰彦の父上はうるさくなるな。でもこんなのは調べればわかる事件で、実にお粗末だな」

「警察に言った方がいいんじゃない?」

「賭けてもいい。警察は僕の話だなんて聞かない。おかしなものだな。虐めも他殺と変わらないのに、つみにとわれない。・・・・何故だろうね?」

「・・・・僕・・・・警察に行ってみるよ」

「山梨君は優しいね。僕も警察に行こう。可能性は低いかもしれないけど」

「うん」

残酷な真実に僕の心臓は凍りついていた。

「明日詳しく話すよ。一緒に朝登校しないかい?」

「うん」

確かにこの時僕は一郎君と一緒に登校することを了承したが、次の朝僕の家に高級外車が停まっていることを、僕はまだ知らない。


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