第23話 自殺マニア

校門前に百合先輩と黒田さんの姿があった。僕は走って、二人の元へと駆け寄った。

「すいません!待ちましたか」

「いえ。私たちも今来たところよ。行きましょうか」

「はい!」

僕と百合先輩は歩き始めた。

「自殺したこの名前は澤田紀子だそうよ。決して騒ぎ立てずに、私たちは真摯な気持ちで行きましょう」

「はい!」

「ここ数日私は澤田さんの友人として、澤田さんの学校のクラスメイトに話しをきいてみたの。誰もいじめのことは言わなかったわ。澤田さんは多くの人に虐められていたか、虐めがなかったのか、結局わからなかったわ」

「・・・・誰も部外者に、話したがらないんじゃないでしょうか?」

「澤田紀子の担任教師に話を聞いた」

黒田さんが急に口を開いたので、僕は驚いた。

「なんで黒田さんが?」

「俺は君の役に立ちたくて」

黒田さんの視線が僕方を見る。僕の全身に寒気が走った。

百合先輩は立ち止まって、黒田さんの方を見た。

「私が黒田さんに頼んだの」

「女教師はお決まりの、なんにも知らないだそうだった」

「黒田さんでもダメだったか・・。確かに私は黒田さんに澤田紀子の担任に話を聞いてくれるように、頼んだわ。けれど、黒田さんは何故澤田さんのことを知りたいの?あなたは死ぬ予定の私達とは違うはずでしょう?なにが目的なの?」

「言っただろう?俺は山梨君の役に立ちたいだけなんだ」

黒田さんの瞳が、僕の方を見る。僕の全身にぞわぞわ寒気のようなものが走った。百合先輩は溜息をついた。

「まぁ、いいわ。あなたの目的が何であれ、快適な死を与えてくれるのなら」

「ああ」

「さぁ、行きましょう。遅くなってしまうわ」

「そういえばどこに行くんですか?学校?」

「澤田紀子さんの実家よ」

「ええ!?大丈夫なんですか?実家だなんて」

百合先輩は度胸があると、僕は心底驚いた。自殺の仕方を参考するにしても、被害者の家に嘘をついていくなんてモラルとしてはどうなのだろうと、僕は若干澤田さんの家に行くことをためらう。

・・・・けれどどうしても僕は死というものが知りたくて、彼女の家へ行くことを決めた。




 さきを歩いていた百合先輩が一軒家の前で立ち止まる。澤田紀子さんの家はなんら変哲のない普通の一軒家だった。

僕の心臓は口から飛び出しそうなほど、波打っている。百合先輩は無表情で動揺も見せずに、澤田さんの家の呼び鈴を押した。

黒田さんの瞳が、動揺を押し殺そうとしている僕の表情を窺っている。僕は黒田さんのことを無視した。



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