僕の友人は馬鹿である。

赤沼たぬき

第1話

中学校のクラスにいる賛同一郎君は、美しい漆黒の目に美しい漆黒の髪の文句なしの美男子だ。だが、あほである。

一郎君が何故そんなあほなのか、この僕山梨務が紹介しようと思う。

まず一郎君は、クラスの男子にいじめにあっている。


「おい!賛同って本当にきもいよな?」


意地悪く笑いながら山岩悟が、わざわざ一郎君の目の前で言う。

一郎は、教科書を机にしまいながら、山岩の方を見て言う。


「この僕の気を引きたいからと言って、普通に声をかけてくれればいいのに」


 ・・・・・普通人は、虐めにたいしてどんな理由もなく、ただの嫌味で言っていると思う。だが、一郎は本気で、山岩が一郎の気を引きたいと考えている。

 すげぇー

僕は感心しながら一郎の方を見る。そうしていると、一郎と目があった。僕は慌てて、一郎から目を離した。

すると、一郎は、僕の目の前に来ると言った。


「この僕の顔をそんなにみたいなら、堂々とみればいい」

「ばっかじゃねぇ!」


山岩がげらげら笑う。


「まったく君はどうしてそんなに僕の気を引きたいのか?山岩君は、本当に僕のことが好きだな」


そういうと、ふぁさと、軽い風を起こして一郎は、自分の少し長めの前髪を払う。


「気色悪いこと言ってるんじゃねぇ!」


ぷんすか山岩は怒っている。

僕は心の中でざまあみろと、山岩をののしった。いちいち僕のことを、ホモだとののしってくる山岩のことを、僕は常日頃殺してやろうかと思っていた。だから僕は、山岩の前で言ってやった。


「本当に、一郎君は恰好がいいよ」

「嘘言うんじゃね」


山岩は、僕の頭を叩いた。いつか殺す、山岩。と、僕は心の中で決意する。


「僕は本当のことしか言わない」


胸を張って僕は、堂々と言った。


「頭がおかしいやろう。てめらできてるんだろう」


山岩は、僕の方を見る。


「山岩君、いちいち僕のことゲイだというのはやめろよ。僕は女の乳には興味あるよ」

「うるせ!ほも」


そう吐き捨てると、山岩は教室を出て行った。僕は溜息をついた。帰る準備をするため、鞄に教科書をつめていると、僕の目の前に一郎が立っていた。


「な」


なに?と、僕が言おうとするよりも早く、一郎は僕の口に、なんと口づけしてきやがった。


「何すんだよ!!」


あまりの突然のことに、僕はショックで頭が真っ白になる。


「僕の口づけは嬉しいだろう?」

「・・・・一郎君がどんなに格好が善かろうが、勝手に口づけをするのは犯罪だ」

「すまない。僕はなんて罪な存在なのだろう?」


一郎君は愛すべき馬鹿だが、基本素直である。


「次やったら警察に行くから。一郎君は、男にキスしても平気なの?」

「僕は、僕を敬う人には、男女関係なくキスのプレゼントを贈ることにしているんだ」

「一郎君のキスが、プレゼント?」

「ふっ、まぁ」

「でもさ、一郎君がどんな罪深い存在だとしても、男でも女でも好みのタイプは別々だと思うよ、一郎君」

「僕は人類をこえて美しい存在だからね。みんな照れているだけさ」


 一郎君は人類を超えているらしい。人類を超えると、どんな猿人類になるんだと、僕は深く考えてみる。

 考えてもその答えはさっぱりわからない。


「一郎君は、顔は恰好がいいのに・・・」


なんて残念なんだ。もう一度言う。一郎君は絶世の美男子だ。テレビの俳優なんぞ、ほとんど一郎君に負けている。中身がスペクタクルだったら、絶対一郎君は女全員と付き合っていることだろう。


「いやだな、そんなに褒めないでくれ」


 一郎君の顔が少し赤く見えた。本当に一郎君は照れているらしい。


「いや、あんまりほめていないけれど」


冷静に僕は一郎君に突っ込みを入れながら、教科書を入れ終わった鞄を背中に担いだ。


「さて、僕は家に帰るよ。一郎君も、一緒に帰ろうか?」

「いや、僕は先生に呼び出されているからね」


一郎君の言葉に、内心僕は頭を傾げる。一郎君はいつもテストの点数も、先生への態度もいい。そんな一郎君が、なぜ先生に呼び出されているのだろう。


「一郎君はなんで先生に呼び出されているの?」

「・・・・愛されすぎて、僕はつらいな」

「いや、一郎君、先生に愛されたら、それはそれで問題だから」

僕はいつものように、一郎君につっこみをいれた。

「まぁ、一郎君外見はいいから、色々気を付けた方がいいよ」

「ああ、わかっている」

「じゃぁね」


僕は、一郎君に手を振って歩き出した。教室をでると、外から冷たい空気が入り込んできて、僕は体を震わせた。

当たり前のことだけれど、冬は寒い。手が痛いな。僕は道を歩きながら考える。

なんでいつもいつも山岩は、僕のことをホモだと言ってくるのだろう?

別に僕は同性愛者の人間に、差別はない。けれども僕の見た目が、ホモといわれるのは謎である。僕は自分があまり、男らしくないのは知っている。家には姉と母親しかいない。父親は僕が幼いころに別居している。僕の身近に、男はいないからなのだろうかと、少し不安になる。

山岩はおそらく、僕が強そうに見えなくて理想の男らしくないからと、ホモだと言ってくるのだろう。随分な、暴論だ。男らしいホモの人に謝れと言いたい。ともかく、山岩は何故かいつもいらいらしていて、辺りに当たり散らしたいサディストなのだろう。とんだ迷惑な話だ。

僕は白い煙に見える冷たい溜息をはいた。


 僕は家に帰ると、おやつを作って、飼っている猫の吉田をからかった。その後居間の絨毯の上ですやすや寝ていた。すると、僕の睡眠をさえぎる家の電話の音が、しつこく僕の耳に聞こえてきた。


「うーん」


しつこいその電話に仕方なく僕は、起き上がり電話をとった。


「はい?」

「山梨か?井上だけど、御母さんかお父さんかいるか?」


電話の声は、僕のクラスの担任の井上誠先生だった。


「いないです。お父さんは仕事で遅いから、僕が聞いておきましょうか?」

「そうだな。ニュースでやるから言っておこう。佐々雅綾子先生が、学校で殺された。賛同一郎が警察に疑われている」


井上先生が言う、佐々雅先生が殺されたというのも当然驚いたが、いちいち生徒である一郎君が、警察に疑われているということを言うものかどうか。まだ一郎君は犯人じゃないのに。僕は、この担任にがっかりした。


「先生、一郎君はまだ犯人じゃないと思います。それに一郎君は自分のことにしか興味がないはずの、天然なあほです。あいつが人を殺すなんて言うのは、狸がライオンを殺すのと同じくらい無理だと思います」

「お前何を言っている?よく分からんぞ。とにかく、学校はしばらく休校だ。連絡するまで家にいて、戸締りしっかりするんだぞ」

「はい」

「じゃあ」

「はい」


 そういい終えて僕は、電話を切った。

井上先生には、一郎君が殺人なんぞ起こすわけがないとは言ったが、正直どうなのだろう?一郎君は自分のことしか興味がないあれだが、もし世界で一番の容姿だと考えている一郎君のことを、否定するものが現れたらどうなるのだろう?

その時こそ、一郎君は人殺しをするんじゃないだろうか?

 卑屈で自信がない僕は、とても自信がある一郎君に憧れている。そんな一郎君が、人殺しだとは信じたくはないけれど。

 しかし今さらながら僕のファーストキスが、一郎君なのはショックである。一郎君以外の男だったら、首を絞めていたかもしれない。

何故一郎君に、キスをされてもあまり頭に来ない理由は、一郎君にはまったく悪気がないからだ。一郎君は、僕のことを性的なものを含む恋などはしていない。十中八九一郎君が、本当に愛しているのは、自分だけだと思う。それにそもそも一郎君を見ている限り、一郎君は何も考えていないと思う。そう考えていくと、自分だけを愛している一郎君に、勝手に赤の他人の僕の口を奪ったことはひどいことだと思う。

考えて居ると悲しくなってきたので、僕は身近にいた飼い猫を抱き上げて、猫の口に口づけた。すると僕は、猫に頬を引っかかれた。

・・・・かなり痛かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る