第9話友人の妹のこと
「可憐が通っている学園は聖十字女子学園といって、歴史ある女子中学だったんだがここ最近共学になってしまってね。可憐は美しい子だから、いつ男の毒牙がかかると思うと、不安だったんだ。僕の予感が的中したわけだけど」
可憐さんの学園に向かう途中歩きながら賛同君は、隣を歩く僕に解説をしてくれている。周囲の景色は端正な高級住宅街だ。広い学園の敷地からは、赤レンガの壁と薔薇が見える。
「ついた。あれが可憐の通う学園だ」
まるで西洋のお城のような白い建物の前に、賛同君はにっこり微笑んで立ち止まった。
「お兄様、私先生に学校の入室許可いただいてまいりますね。その前に、山梨様でしたか、少し私と二人でお話したいのでご一緒に来ていただけませんか?」
「え?いいけど」
どうやら可憐さんは僕に話があるらしい。なんだろうと、僕は首を傾げ、僕の後ろにいる賛同君の方へ振り返って言った。
「少し行ってくるね。賛同君」
「ああ。待っている」
「お兄様すぐにお迎えに参ります」
にっこり可憐は微笑んだ。
こうして僕と可憐さんは学校の正門をくぐった。
正門前にいる賛同君と距離が離れると、可憐さんは立ち止まった。そして可憐さんは舌打ちした。
「ち」
すさまじい形相で可憐さんは、僕の方を見る。
「か、可憐さん?」
「あんたお兄様の何?」
「え?何って言われても」
「お兄様に対して馴れ馴れしいのよ、山梨。あなた気持ち悪いわ」
「呼び捨て!?」
「あんた男でしょ。私のお兄様に手出ししたら殺すわよ」
「・・・・僕可憐さんが何を言っているのかさっぱり分からない」
「お兄様はお美しいから、あなたみたいなゴミ虫がつくっていっているのよ」
いや、僕にへばりついているのは、どちらかというと賛同君の方ということは懸命に言わないでおく。
「・・・・何が言いたいかよくわからないけど、賛同君と僕とは友人で、それ以上でもそれ以下でもないよ」
「当たり前よ、あなたみたいな平凡。お兄様にふさわしくないわ」
「・・・・・」
なにか言い返したいが、突っ込みどころが多すぎて僕は、何を可憐さんに言い返せばいいか分からなかった。とにかく早く用事を終えて僕は、家に帰って猫の餌やりをしようと考えた。
「行くわよ。お兄様の下僕」
「・・・・僕は下僕ではない」
「嫌になっちゃうわ。どいつもこいつも私の美しさをねたんで嫌がらせするのだもの」
「可憐さんは嫌がらせをされているの?」
「ええそうよ。私の教科書なんて隠されるのは日常茶飯事。平民は厭ね」
可憐さんは虐められているらしい。いじめをする平民。可憐さんは相手を蔑むことで、なんとか保っているのではないかと、僕は可憐さんにたいして同情の念を覚えた。可憐さんがたとえ本気で嫌な人だとしても、不当な暴力であるいじめをされる覚えはない。
「可憐さんの上履きを盗んだのは、そいつらかもしれないね」
「そうね」
「可憐さんの上履き探すのを手伝うよ」
「当たり前よ」
可憐さんは僕から顔をそらした。
「お兄様には私が虐められていることは内緒にしてほしいの」
「分かった」
「ありがとう、山梨。外部のあなたはここで待っていて。今先生を連れてくるから」
「ああ」
僕は校門を出て、賛同君がいる校門前に戻った。
それから十分すぎ位に、長身の眼鏡をかけた男をひきつれて可憐さんは、僕と賛同君の元へ戻ってきた。
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