第25話 自殺マニア

その夜僕がベッドの上で寝ていると、携帯電話が鳴った。携帯電話は賛同一郎君からだった。

「一郎君?」

「久しぶりだね、山梨君」

懐かしい賛同君の声に、弱っていた僕は不覚にも泣きそうになった。

「久しぶり、一郎君!」

「元気そうでよかった」

「一郎君、ドイツはどう?」

「とても有意義なものだよ」

「有意義?へぇー」

「日本はどうかな?」

「・・・・それがさ、僕殺されるかもしれないんだ」

「殺される?随分物騒だね」

「黒田さんとかいう奴がなんだか怖くてさ」

「黒田さんねぇ。・・・・その黒田君がなにか好きなものはあるかい?」

「黒田さんの好きなもの?なんで?」

「人の好みを知るのは、その人間の人柄を知るのに、手っ取り早いんだよ」

「黒田さんの好みは、えーと、人をいたぶることとか?あの人サディストとか言ってたし」

「随分わかりやすい人だね」

電話越しの賛同君の苦笑いが、僕の耳に聞こえてきた。

「笑わないでくれよ」

「いやごめん。山梨君と黒田君の出会いは、どこで出会ったんだい?」

「百合先輩の紹介で」

僕が言うと、一郎君はそれは深い溜息をついた。

「なるほど事態は切羽詰まっているようだね。なるべく黒田という人物に関わらないようにした方がいいとしか、僕には言えないな」

それはそうだ。一郎君は今ドイツにいるわけだし・・。

「そうだよね」

「一度山梨君が黒田君に、僕はいたぶる方が好きだと言ってみてはどうだろう?」

「ああ、その手があったか!うん!やってみるよ、一郎君!」

「少し元気がでたみたいだね、よかった」

「・・・・あのさ、一郎君ってさ、あの、百合先輩と仲いいの?」

「ああ。彼女は僕のつぎに美しいからね」

「一郎君は、百合先輩のことどう思う?」

「綺麗好きの美人だと思うよ」

僕は本当に聞きたいのは、そんなことではない。僕は本当に聞きたいのは・・・・。

「彼女は本当に死にたいのかな?」

一郎君が急に言い出した言葉に、僕は息が詰まった。

「え?」

「僕には百合先輩が苦しんで見える」

「百合先輩は・・・・」

そんなわけない。百合先輩は僕との同志だ。百合先輩は・・・・。

「百合先輩のことは、一郎君には関係ありません」

僕はそのまま一郎君とつながっていた携帯電話を切った。

 僕は見て見ぬふりをした。見て見ぬふりをしなければ、百合先輩が僕から離れて行ってしまうようで・・・・。

そんな何も知ろうとしなかった僕に、天罰が下った。


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