第3話
「今日は出席確認して終わるぞー」
井上先生が元気よく、声を上げる。僕らは「起立、礼」をして着席した。
「お前らなに犯人捜ししているんだ。廊下まで賛同、お前の話し声が聞こえてきていたぞ。人が亡くなっているんだぞ!不謹慎だ」
「それは先生、僕が殺人犯だと疑われたからです」
なぜか長い脚を組んで、一郎君は言う。
一郎君、君、窮地に立たされているのだから、格好良く膝を組んで、椅子に座っている場合じゃないと思うよ。
僕は一郎君のことが心配で、はらはらと担任と一郎君の間に視線を向ける。
井上先生は疲れた様子で、溜息を吐くと言った。
「まぁ、どうせニュースやテレビで報道されるからいうが、警察が学校の校長先生を逮捕したそうだ」
衝撃の担任の言葉に、教室中がざわめいた。
「静かに!!」
井上先生の大きな声に、教室が静まり返った。
「だから学校の休校はまだ当分続く。今日からこの教室で授業をすることになる」
「せ、先生」
クラスの委員長の花菱さやかが、恐る恐る挙手して立ち上がる。
「なんだ?花菱」
「校長先生は、なぜ佐々雅綾子先生を殺したんですか?」
「・・・・それはお前たちが大人になったら、わかるんじゃないか?」
心底疲れた様子で、担任の先生は言った。きっと、僕らが大人になっても、何故校長先生が、佐々雅綾子先生を殺した理由なんて分からないだろう。うまく井上先生はごまかしたのだろう。
担任は僕らの出席をとったら、すぐに教室に戻ってしまった。僕の脳裏に、校長先生の姿が思い浮かんで消えた。僕は校長先生の姿を、遠くから見ただけで、まったく話したことはなかった。
「でもよかった、一郎君の疑いがはれて」
僕の隣の席にやってきた、一郎君に話しかける。
本当によかった。一郎君への疑いがはれて。僕の大事な面白い、いや、僕の友人がいなくなってしまうところだった。
「この僕が殺してしまったら、憎い相手は天国に行ってしまうからね。だからこの僕は殺人なぞ犯さないよ」
そういって一郎君は、嬉しそうに微笑んだ。
・・・・一郎君は、いつでも一郎君なのだった。
一郎君は決して馬鹿ではない。とても素敵なあほだ。
「そういえば、一郎君なにか言いかけていたけど、先生が来てしまって最後まできけなかったけれど、なんて言おうとしていたんだ?」
「・・・・ああ、犯人はおそらく計画犯じゃないって、僕は言いたかったんだ。こんな身近で殺人事件を起こしたのは、すぐにばれてしまうのだからね」
「すごいな、一郎君、将来探偵でもやればいいのに」
「僕は容姿端麗で勘がいいけれど、トリックなどはまったく分からないからね。天は二物を与えてくれなかったということかな。僕への愛は時に恐ろしいからね」
「はは。何言っているか分からないや」
「君がもし僕の助手を生涯してくれるとしたら、探偵やろうかな?」
「絶対嫌だな」
「照れないでくれ」
「まぁ、照れてないよ。僕は一郎君の助手じゃなくて、友達だ」
「そうだね。パートナーだ」
「パートナーってなに?」
「相棒ってことさ」
一郎君は、それはそれは嬉しそうに微笑んだ。
「そ、そうだね」
僕の顔が少しひきつった。僕はうまく笑えているだろうか?
僕は笑った。確かに一郎君の友人でいたいが、一郎君のしりぬぐいはしたくはなかった。
「僕の美しさに気がひけるのか、僕には友達というものがこれまでなかったから、すごくうれしいよ、山梨君」
僕も笑っていった。
「うん」
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