第2話彼女を誰が殺したのか?

 結局、佐々雅綾子先生を殺した犯人は、一か月たっても見つからず、僕らは隣町の学校の空き教室に通うことになってしまった。

僕が学校に登校すると、僕に待っていたのは厭な空気が漂う教室だった。

一人座る一郎君の席や、席の周りには、破かれた教科書やごみが散乱している。

・・・・なんともひどいいじめだ。僕は自分の席に、鞄を下して立ち尽くした。

僕はなかなか勇気がなくて、一郎君を遠巻きで見ているだけだ。心では早く止めなければと、思っているのに。

山岩が持っていた花瓶を逆さにして、一郎君の頭に水をかけた。そしてげらげら笑う山岩とクラスの男子たち。

ついに一郎君は、座っていた席から立ち上がって、山岩に向かって叫んだ。


「僕が美しいからと言って、嫉妬はやめないか!みっともないぞ、山岩君!」

「頭おかしいんじゃねぇ?誰がお前なんて嫉妬するかよ」


 陰湿な笑い方をする山岩を、一郎君はひるまずに睨んでいる。


「可哀想に、君はこんなことでしか、僕の注目がひけないんだね。大丈夫。君だっていいところある。僕は美しすぎるから、君をそんなに狂わせてしまった。すまない。全部僕の美しさのせいだ」

「お前になんか嫉妬するか人殺し野郎!!」


逆上した山岩が、一郎君の襟を掴んで殴りつけようとする。

 ぼんやりしていた僕は我に返って、慌てて一郎君と山岩の間に入って喧嘩を止めようとするが、山岩に殴られた。それから何故か複数の男子と、一郎君と僕とが、殴り合いになったわけだが、顔を殴られて切れた一郎君が、男子と山岩君をぼこぼこに殴って気絶させた。

すごいね、一郎君。めちゃくちゃ強いんじゃねぇーか!


「まったく!僕の顔が傷ついてしまったじゃないか!女の子達が泣いたらどうするんだ」


ぷんすか怒りながら一郎君は、自分の顔の腫れを濡らした手ぬぐいで冷やしている。それから一郎君は、座り込んでいる僕に気が付くと、手を差し出してくれた。


「大丈夫か?山梨君」

「いや平気だけど、めちゃくちゃ強いんだね、一郎君」

「僕はいつでも暴漢と戦えるように、鍛えているからね」

「へ、へぇー」


一発で山岩たちを確実に仕留めていく一郎君の残虐性に、僕は若干引いていた。


「まったく困った人だ。僕は誰も殺していないって言うのに、しつこく言ってきたりして。これも僕に対して気を引きたいのかと考えてしまうよ」

「いや、一郎君は、もうそう考えているんじゃ」

「わかっていないな、山梨君。僕の気を引きたいか、僕に対する嫉妬かどちらか分からないじゃないか。恨むなら僕を産んでしまった神を憎んでくれ。それに皆が僕のことを人殺しというが、大体僕が、何故佐々雅綾子先生を殺さなくてはならないんだい?」

「お前がきちがいだからじゃねぇか」


殴られて真っ赤な目をしている山岩が、言う。あれだけ容赦なく一郎君にやられておいて、こりない山岩だ。

一郎君はやれやれと言った様子で溜息をついてから微笑んだ。


「佐々雅綾子先生は美人だったな」

「それがなんだよ?」


かなり不機嫌な山岩君の声。それはそうだ。山岩君はあざだらけなんだから。


「だったら犯人は、異性だ」

「それって一郎君、いくらなんでも偏見なんじゃ」

「そうこれはそれなりの根拠がある。美人が殺される時で、犯人はかなりの確率で男なんだ。もちろんその他の可能性もあるが、最初に事件を考えていくとっかかりとしては便利だよ。・・・・まず、佐々雅綾子先生はこの学校で殺された。被害者の職場で、殺されたとすると考えられることは、二つのどちらかの理由だ」

「二つの?」


何故か急に推理しだした一郎君に、何故か僕を含めたクラスのみんなは呆然と話を聞いてしまう。


「職場を知っている人間と、通り魔とのどちらか二つの犯行が考えられる。僕が警察から事情聴取の時に聞いた話だと、佐々雅綾子先生が殺されたのは、僕らが帰った後の時間帯だ。

普通かどうかは知らないが、通り魔だったら、殺そうと思ったら学生たちを狙うだろう。僕らは無防備で弱い。その方が抵抗できないたくさんの人間を殺せる。通り魔は、複数の人間を狙うケースが多いい。本で読んだ情報だ。わざわざ人が少ない時間に忍びこんだのは何故だ?山梨君?」

「・・・・いや僕に聞かれても。でもさ、通り魔だって捕まりたくないから人の少ない時間に学校に忍び込むことあるんじゃないかな?」

「通り魔がわざわざ人がいるかどうかわからない学校内に侵入する可能性は低いと、僕は勝手に推測する。

この学校内にその時間に、か弱い美人がいたと知っているのはこの学校の関係者か、強姦などを含む物取りかのどちらかだ。だが、なにもこの学校の物がとられていないことは、ニュースでも聞いている。ということは、佐々雅綾子先生への恨みだ。佐々雅綾子先生は美人だから」

「そんなの分からないだろう!!この学校に勝手に入ってきた通り魔かもしれねぇじゃんか。それにお前だって、犯人かもしれないじゃんかよ!」

それまで黙って聞いていた山岩が、でかい声をあげる。

「・・・・そう。それは確証がない。佐々雅綾子先生の近所の人間もしくは、佐々雅綾子の外部の関係者の確率だって考えられる。だが高い確率で、佐々雅綾子先生を殺したのは、佐々綾子と接触があった者の犯行だ。佐々雅綾子先生は物事をはっきり言うタイプの人間だ。大方別れ話か不倫か怨恨化だろうな、犯人の動機は。

佐々雅綾子先生を殺した犯人が身近な人間だとすると、自分が犯人だと疑われないように、それなりの工作はしたはずだ。佐々雅綾子先生が、殺された日は、遺体の現場から遠くにいたはずだ、犯人は。犯人が、もし佐々雅綾子と見知らぬ他人だったら、見つかるリスクを冒してわざわざこの学校の中まで遺体を捨てに行く意味はなんだったのだろう?きっとそれは犯人が・・」

「犯人がなんだよ?」


一郎君はおしだまったまま、教室の担任の井上先生を見ている。

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