第11話 僕の友人の妹のこと
「な、何をおっしゃっているの、お兄様?」
可憐さんの顔色は真っ青になる。
「一崎先生は君の上履きがなくなったことに対して、虐めの心配を何もしていなかった。僕は不思議におもって、一崎先生にそのことにたいしてきいてみた。あの上履きを置く場所には、外部からの人間を見張るため監視カメラが設置されているそうだ。過去に変質者が校内に侵入してきたからだ。では君は自分で上履きをなくしたということになる」
「そ、そうです!」
「だが君はまるで見せびらかすように僕と山崎君のことを、一崎先生に言った。それがなぜなのか、僕は考えた。そして滅多に人に懐かない君は、一崎先生に好意をよせていた。君は一崎先生が好きで、まるで僕と山崎君を恋人のように一崎先生に見せつけた。ということは考えられることは一つ。一崎先生は、同性愛者かなにかだったのだろう。何故一崎先生に僕のことを見せつける必要があったか、それは」
「もうやめて!そうよ、お兄様の言う通りよ!!どうしても私は一崎先生に好かれたかったの!」
「・・・・でもそれじゃぁ、どちらにせよ可憐さんは失恋してしまうんじゃ」
僕の疑問。
賛同君は溜息を吐いて口を開いた。
「可憐、あの一崎というのはろくでなしだ。そんな男に君をやることはできない」
「余計なお世話よ!!お兄様なんて大嫌い!!」
可憐はそう叫ぶと、走り去って行った。
「きっと、一崎先生はバイセクシャルだという可能性があるな。可憐はあきらめきれなかったんだろう」
「・・・・・そう。さっき一崎先生と何を話していたの?賛同君?」
「・・・・・少し僕はためしに一崎先生を口説いてみた。残念ながら僕は一崎先生の好みのタイプではなかったみたいだ。整いすぎた僕の顔より山梨君の方が、一崎先生のほうが好みだと言っていた。君を紹介してくれと頼まれた」
「へ、へぇー」
「もちろん断ったよ。可憐もすぐに目を覚ましてくれるといいが。山梨君が可憐を慰めてほしい」
「え」
「よろしく頼む!」
いやだとは言いにくい。賛同君の妹なわけだしと、僕は迷った。
「う、うん」
一応そう答えておいた。
「さぁ、可憐の上履きを探しに行こう」
賛同君が僕に向かって手を差し伸べてきた。
「え?でも上履きの盗難は、可憐さんの嘘だったんじゃ」
「僕の妹だからね。一応上履きを探してやらなければ」
賛同君は肩をすくめた。僕は笑った。
「そうだね」
「可憐のクラスは確か二年の桜組だと聞いていた」
階段を上がり、僕と賛同君は、可憐さんの教室に向かう。
「あのさ、賛同君」
「なんだい?」
「可憐さんを心配なのはわかるけどさ、一崎先生を口説くのはやりすぎだよ」
立ち止まった賛同君。僕も立ち止まる。
「どんな事情であれ、好きでもない人を口説くのは、ちょっとひどいと思う」
「・・・・賛同君は優しいな」
賛同君は手を伸ばし、僕の手を握った。男の接触はいつまでたってもなれない。僕は賛同君の手を放そうとするが、賛同君は僕の手を強く握って離さなかった。また僕と賛同君の蹴り合いに発展しようというとき、声がした。
「おいお前ら」
声がする方を僕と賛同君が見ると、そこには身長が高く目つきの悪い制服を着た男子が立っていた。
「あの高慢ちき女の知り合いだろう?」
「高慢ちき女って、可憐さんのこと?」
「ああ。俺はあの女と同じクラスの中山三伍。あいつが今日、世界で一番お美しいお兄様とやらを連れてくると言っていたから、教室の前で待っていたんだが、いつまでたっても来ないんで様子を見に来たんだ。あんたが賛同の兄貴だろう?顔少し似ているし、イケメンだしな」
「そうだよ。君は可憐のお友達かな?」
「まぁ、そういうことだな。あんたは?」
「失礼。自己紹介がまだだったね?僕は賛同一郎。可憐の兄だ」
「僕は賛同君と同じクラスの山梨。よろしく」
「ふーん。手もつないでいるけどよ、お前らできてんのか?」
「できてないよ!」
「僕と山梨君はそれはそれは深い友情で結ばれているだけさ」
「ちょっと、賛同君!誤解を招く言い方はやめろよ!」
「まぁどうでもいいけどよ、あいつ、賛同ってさ、クラスで浮いてて虐められているんだ。兄貴ならあいつのことを見ててやってくれ」
「・・・・君も可憐のことを見ていてくれるんだろう?」
賛同君は微笑んだ。それはそれは美しい賛同君の笑みだった。
「知るか!」
吐き捨てるように言うと、中山君は去って行った。
「可憐にも友達がいるようだ。少し安心したな。上履きは買って帰ろうか?」
「わざわざ探しに来たのに、結局買って帰るのか」
「ああ。可憐の友達の顔も見れたし、もう上履きはいいだろう」
「そうだね」
僕と賛同君は学園を去ることにした。
その夜僕はネコの餌やりが遅くなったのを猫に謝りつつ、すねた様子の猫に餌をやった。
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