第26話 自殺マニア

次の日学校にやってきた僕は、鞄を机の上に置いて席に座った時、僕の近くではなしていたクラスメイトの国永章太郎の言葉が聞こえてきた。

「どうしてそんなことをしたんだろうな?」

「美人なのにな」

「山梨、お前百合先輩と仲がいいんだろう?」

クラスメイトに暴行されて以来、クラスでは腫れもの扱いだった僕に、初めて国永が話しかけてきた。

「・・・・百合先輩がどうかした?」

「百合先輩が今行方不明なんだってさ」

「行方不明?」

僕の体全身に冷たい汗が噴き出してきた。

「今朝学校に連絡があったらしい」

「今朝」

「山梨百合先輩とよく話していただろう?なにか百合先輩から聞いていないのか?」

「何も」

「ふぅーん、そうか」

国永はそういうと、僕から離れて男の集団の方へと戻って行った。

僕は携帯電話を掴むと、こっそり教室の外に出た。誰もいないトイレの個室に入ると、慌てて百合先輩の携帯番号に連絡を取る。

 だけれど百合先輩は、僕の携帯電話に出ることはなかった。

 早く授業を終えて百合先輩を探しに行きたい。けれど僕は、百合先輩について何も知らなかった。

 泣きそうな気持で授業を終える。僕は立ち上がりそのまま掃除をさぼって、帰ろうと考えた。僕は何もできないかもしれないけれど、百合先輩を探そうと思った。

「おい山梨!お客さん」

クラスの男子に呼ばれて、僕は顔をあげて声の方を見た。クラスの男子が指差す方には、一人の少年が立っていた。

その少年は僕の顔を見ると、大きな声を上げた。

「よお!お前が賛同の友人の、山梨か!」

中学生なのにひどく恰幅が良い少年だ。僕には全く心当たりがない少年だった。

「あの・・・君は?」

「俺は一郎の親戚の峰彦という。よろしくな!」

賛同君の親戚はにこにこ笑う明るい少年だった。

「あの?」

なんで峰彦君は僕に会いに来たのだろう?

「俺さ一度一郎の親友って奴に逢ってみたかったんだ。一郎の奴かわっているだろう?どんな妙な奴が一郎と親友なんだってさ」

「僕普通ですけど」

「普通だって言っている奴こそ、普通じゃないんだぜ」

「すいません。今日は用事があるんで、あまり話していられないんです。また今度」

「何?厄介ごとか?」

「・・・・ええ、まぁ」

「ふーん。一郎の奴もお前のことをなんか心配したぞ」

「心配?」

「お前は馬鹿だから心配だってさ」

「・・・・馬鹿ってなんですか?失礼だな」

僕は頭に血が上る。

「お前がおっちょこちょいだから心配だってよ。怒るなよ」

「今日は忙しいから、また今度話そう」

「いいぜ。これ俺の携帯番号」

峰彦君は僕に携帯電話を取り出して見せた。僕は頷いて、制服のポケットから取り出して携帯番号の交換をした。

「何か困ったことがあるなら俺相談に乗るぞ。一郎もお前が困っているなら、相談になるだろうよ。一郎は変わった奴だが、頭がいいからな。そんじょそこらの悩み事ならすぐに解決してくれるぞ」

「ありがとう。一郎君にも相談に乗ってもらうよ」

「せっかく来たんだしよ、学校の外に車待たせているから、一緒に車に乗らないか?お前の家まで送ってく」

「ありがとう」

「行くぞ」

峰彦君と連れだって学校の外に出る。

一郎君の親戚もお金持ちらしい。学校の門前につけている車は、黒い外車だった。白い手袋をつけた運転手の人が、車のドアを開いて僕と峰彦君を乗せてくれた。

「・・・・すごい車だね」

「ああ。でもあれは俺の車じゃない。親父の車だ」

「峰彦君のお父さんて?」

「会社の社長だ」

「へ、へぇー」

僕のお父さんは普通のサラリーマンの人だ。

「お前さ、一郎のことどう思う?」

「どう思うって?」

「あいつ妙にポジティブだろう?」

「ポジティブというか、一郎君は自分にすごい自信があるよね。羨ましい」

「あいつ幼少期の少しの間記憶喪失だったんだぜ?知ってたか?」

「いや、全然」

そんなこと一郎君に一言も聞いたことがない。

「自分の名前すら思い出せないでやんの。記憶喪失の後かどうかわからないが、一郎はいつも自分の姿を鏡で見るようになったんだ。そしていつも一郎の奴は、自分が一番美しいって呟いてんだぜ。俺の方が格好がいいに決まっているんだろうが」

「・・・・そう」

返答に困る質問はしないでほしいと、僕は切におもう。

あっという間に僕の家まで車が付いた。

「峰彦君、ありがとう」

お礼を言うと、僕は車を降りた。

「ああ、またな。今度俺の家に遊びに来いよ」

「うん。峰彦君も僕の家に来る?」

「今度行く」

僕は去って行く車を見送った。

僕はすぐに黒田さんの携帯電話に連絡をいれた。

「・・・・はい?」

黒田さんはすぐに電話に出た。

「・・・・山梨です」

「どうした?」

「百合先輩が行方不明だそうです。黒田さんはなにか聞いてませんか?」

「彼女なら家に帰った」

「え?」

「すまない、今仕事だから、また」

黒田さんの携帯電話はすぐに切れた。

・・・・百合先輩が家に帰ったと、黒田さんが言った。黒田さんは、・・・・百合先輩ともしかして一緒にいたのか?僕はショックで、呆然としてしまった。

すぐに我に返った僕は唇をかみしめ、百合先輩の家へと走った。走りながら僕は、百合先輩の携帯電話へと連絡を入れた。

「もしもし百合先輩!!」

「はい?」

「・・・・無事でよかったです」

何一つ変わらない百合先輩の声を聴いて、僕は心底安堵した。

「今百合先輩の家に向かっています。これから会えませんか?」

「家の近くの公園で待っていて。両親は私に外に出ないように言われているから、公園に行けないかもしれない」

「分かりました。こられない場合はメールをください」

走りながら話していたため、僕はすぐに百合先輩の家の近くの公園についた。荒い息を整えて、僕はベンチの上に座った。

ぼんやり僕は公園で遊んでいる子供を見ながら、百合先輩が来るのを待った。百合先輩がきたのは、それからに十分ほどしてからだった。

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