第8話友人の妹のこと

 僕は平凡である。平凡以外でない。だが僕の友人の賛同一郎は、個性的な人だった。友人のいない歴一年の僕は、一郎君の家に招待されてやってきた。一郎君に案内されてやってきた家を見て、僕は思わず呟いた。


「一郎君って、お金持ちなんだね」


僕は一郎君の大きな白い洋風の御屋敷を見て呟いた。都心から近いこの立地で、こんなどでかい邸を立てられる一郎君の家は、そうとうお金持ちなのだろう。貧乏暮しの僕にしてみれば、うらやましい限りだ。


「お金を持っているのは僕じゃない。僕の両親だよ」


一郎君は苦々しく言う。そんな一郎君の苦々しい表情をみるのを僕は、初めてなので驚いた。


「ふぅーん」

「どうぞ」


白い歯を見せながら一郎君は笑みを浮かべ、家の門を開けて僕を家の中に招いてくれた。門をくぐると広大な庭があった。庭の中央には白いテーブルが広がっている。そのテーブルの前には、麦わら帽子をかぶった美少女と白い犬がいた。


「いらっしゃいませ、お客様」


にっこりその美少女は、僕に向かって微笑む。僕は硬直し、赤面した。どうしよう?うまれてこの方僕は女子という女子と話したことがなかった。


「山梨君、この子は僕の妹の賛同可憐。可憐、彼は山梨君だ。山梨君は僕と同じクラスの友人なんだ」

「あらま、お兄様のご友人だなんて、初めて見たわ。山梨様、兄をよろしくお願いしますね」

「よ、よろしく」


可憐さんは僕に向かって、手を差し伸べてきた。僕は自らの手のひらをズボンでふき、彼女の手を握った。


「まぁ、本当に山梨さんは可愛らしい方ねぇ」


可愛らしい?

僕は人に可愛らしいだなんて言われたのは初めてなので、戸惑った。はたして可愛らしいは褒め言葉なのだろうか?


「山梨君は本当に面白い人間なんだ」

「へぇ?それは遊びがいがありますねぇ」


何故か可憐さんは舌なめずりする。その表情は清楚な御嬢さんからはかけ離れた、まるでサバンナにいる草食動物を狙う肉食獣のようだった。


「はは。可憐、山梨君を虐めてはだめだぞ。可憐はいじめっこだからな」

「いやです、お兄様。私はいじめっ子ではありません。ただ人を虐めるのが好きなだけです」


いや可憐さん、めちゃくちゃ怖いんですけど。僕は心の中でどんびく。流石は賛同君の妹さんだけあって、個性的な女性だった。


「お兄様に相談があるのですけど」

「なんだい?」

「私の上履きが盗まれてしまって、困っているのです。犯人を見つけ出してお灸をすえたいのですが」

「可憐は僕の次に美しいからな。何者かが可憐の上履きを、性的に欲して盗んだのかもしれないな」

「嫌だわ、お兄様。怖い」

「可憐は僕が守る」

「お兄様、素敵!」


兄妹ですっかり二人の世界を作っている。僕は置いてけぼりだった。別にいいけど。


「早速可憐の上履きが盗まれた現場に行こう。山梨君も行くだろう?」

「いや、僕、猫に餌やりがあるから」

「行くぞ、山梨君」

「だから」

「僕は寂しい」

「・・・・そっかぁー。でも僕帰るね」

「ふぅ、仕方がないな。可愛い猫は君のことを待っているだろうし。ああ!僕はなんて優しいのだろう」

「賛同君は優しいよ。じゃぁね」


そのまま僕は曲がれ右して帰ろうとするが、賛同君が僕の腕を掴んで引き留めた。


「しかし大丈夫。この僕の用事だ。猫なら少しぐらい待ってくれるさ」

「いやいやさっきと言っていること違うし。今は猫かな?猫の餌やりさぼったら死んじゃうし」

「この僕の用事だ。僕の用事だから猫はお利口に待っていてくれるさ」

「うん。ごめん、今日は帰る」

「どうしても?」

「うん」


ここは素直に僕は、賛同君に応えておいた。


「いや、抱きついてこないでくれ」


賛同君に抱きつかれた僕の全身が悲鳴を上げる。

どれだけ賛同君は寂しやがりなんだ。


「あらお兄様とあなた、そういう仲なの?」


能天気な可憐の声が聞こえてきた。これは完全に僕のこと誤解されている。


「違う!」

「僕は君を離さない!」

「ひいいいいい!!分かった分かったから」


生暖かい賛同君の抱擁に、僕は完全に敗北した。しかしどれだけ賛同君は寂しがり屋なんだ気持ち悪いぞ。


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