第4話誰が彼女を殺したのか?

 あれから警察に、僕の学校の校長先生は逮捕されたけれど、校長先生は、佐々雅綾子先生を殺害したことを認めなかったと、テレビのニュースで聞いた。

僕の家からは遠い学校への登校は今も続いている。前よりも一時間は早く起きなくてはならなくなった。いい迷惑だと、今日も僕は重い体を温かい布団からおこす。


「おはよう、山梨君」


学校の途中で待ち合わせしている、電柱の前の一郎君の姿が見えた。僕は走って、一郎君の元に走り寄った。


「おはよう!一郎君」


ずっと、引っ込み思案で、友達のいなかった僕は、一郎君と一緒の登校は、とても嬉しかった。

一郎君は、僕の手を握って、歩き出した。僕は数秒間黙ったまま、僕の手を握っている一郎君の手を見下ろした。

僕は驚いて、目玉が外に飛び出しそうになった。


「一郎君は同性愛者?」


一郎君は何故か僕の方を見て、微笑んだ。


「君は馬鹿だね」

「え?」

「手をつなぐなんて、友人同士では当たり前だよ。外国ではもっとつないでいる」

「え、まじで」

「君は本当に馬鹿だな」


本当に楽しそうに一郎君は笑ったので、僕は早く手を放してほしいと思いながら周囲の景色を見まわした。


「・・・・馬鹿は言いすぎだ」

「すまないね。友達同士だってセックスできると思うよ。世間でもそれはセフレというものだけれど、セフレでも、あいまいでどちらでもない友達というものは存在している。言葉は本当に、難しいね」

「・・・・な、なんで急にセックスの話?やっぱり一郎君、同性愛者なんだろう?」

「僕は僕を愛してくれる人を愛しているだけだ、山梨君。そんなに僕の愛が気になるかい?」

「い、いや、全然」

「君たちは境界線が大事なんだね。愛の対象がどうであれ、どこまでいっても君は君でしかないんだ。僕は君を大切に思っているよ」

「いちいち思わせぶりの発言しないでくれ!!!!」

「すまない。僕は友人と熱く語り合うのが夢だったから」

「友達、友達だよね!!」

「そんなに焦らなくても、仕方がないな。そんなに僕とセックスしたいのかい?」

「・・・・違うよ」

「君には悪いが、僕は僕のような美しい人がタイプなんだ。ごめんね、山梨君」

「うーん。色々つっこみをいれたいところだけれど、一郎君は僕のこと不細工だとかおもっているのかな?」


一郎君は微笑むだけで、何も言わなかった。僕らは寒い中、銀杏並木の道を歩いた。

一郎君が握った手を何とか放そうと、僕は必死に一郎君の手を掴んで力を込めたけれど、恐るべき一郎君の握力で、ちっとも手がひきはがせなかった。

つないだ手は汗が滲んだ。

僕は必死に握った手を放そうと、蹴り合いに発展しつつも無事、学校にたどり着いた。

僕はやっと、一郎君に競り勝ち、手をつないでいない状態で、教室にたどり着いた。


「ようおほもだち!」


早速山岩の、挨拶がきた。山岩は自分の席から、僕と一郎君のもとへやってきた。


「朝から手をつないで登校したんだって?がちで本物確定じゃんか」


山岩は情報通だ。僕と一郎君が、登校時に手をつないでいることをどこからか聞いたのだろう。本当に、面倒だ。僕はげんなりする。ふと、僕の横にいる、一郎君に目を向ける。一郎君は不思議な顔で、山岩の顔を見ていた。


 「山岩君の言うがちで本物確定という言葉は、どういう意味なんだ?僕にはよくわからない」


「お前が、ほもだということだよ」


またこりない山岩君は、またもや一郎君につっかかっていく。もはやその執念は、もしかして山岩君、一郎君のことが好きなのではと、勘ぐってしまう。


「何故そんなに君は僕の好きなタイプを知りたがるのかな?やはり君はもしかして、僕のことが異性として好きなのでは?」


 ・・・・・一郎君は、僕が山岩にたいして思っているのと同じようなことを言っている。確かにそうだ。なんでこんなに一郎君は、山岩君に目をつけられているのか。


「うるせ!相変わらずキモイ奴だな!反吐が出る」


そう吐き捨てると山岩君は、自分の席に戻って行く。


「彼は素直じゃない人だね」


困った顔で微笑む一郎君。


「本当にそうだね」


そういって、僕は笑った。


「一郎君、今日一緒に新しくできたラーメン屋に食べに行かないか?」

「いいね。何味なんだい?」

「とんこつが有名なお店なんだ。焦がしたねぎを入れるんだって」

「へぇ。おいしそうだね。ラーメン食べに行こう。今度の休みの日、よかったら山梨君、内に遊びに来ないか?」

「・・・・一郎君の家?」

「君に僕の愛犬の修羅を、ぜひ紹介させてほしい」

「へぇー、一郎君の家、犬を飼っているんだ。僕の家は、吉田という名前の猫を飼っているんだ」

「・・・・賛同君」


クラスの女子の吉永咲さんが気まずそうに、一郎君の名前を呼んだ。なんだろう?と、僕は吉永さんのほうへと視線をむけた。


「なんだい?吉永さん。この僕になんの用かな?」

「・・・・ごめんね。私こないだ少しでも、一郎君が殺人犯だと疑っちゃって」

「僕は嫉妬されてしまう存在だから仕方がないさ」

「・・・・今度賛同君暇だったら、一緒に駅の近くにあるお店に食べに行かない?」


おっと、吉永さんは、一郎君のことを誘いたいらしい。一郎君は中身は残念だけれど、見た目だけは超一級だ。平凡の僕には羨ましい限りだ。


「ありがとう吉永さん。ぜひ食べに行こうかな」


白い歯を見せて笑う一郎君。女の子からの誘い。ぜひうまくいくといいねと、僕は若干の嫉妬まじりで思う。僕だって女子にはもてたい切実に。

チャイムが鳴って、ちょうど担任の井上先生が教室に入ってきた。

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