第6話誰が彼女を殺したのか?

「先生はどうして、佐々雅先生を殺したんですか?」

「俺はもう疲れたんだ。佐々雅綾子からのいじめにたえかねてだ。どいつもこいつもそればかり気にしてくる。俺は何も悪いことをしていないのに。何が悪い!!死ぬ前に、最後にやりたいことをやることにした」


 おだやかだったいつもの先生の様子はみじんもなく、支離滅裂なことを叫んでいる。僕は恐怖ですくみあがった。


「・・・・やりたいこと?」


 井上先生に髪を掴まれて、引き寄せられて僕の口を奪われた。衝撃と嫌悪感で、僕は吐きそうになる。生暖かい井上先生の濡れた口を、口で感じて気持ち悪い。一体全体僕が何をしたって言うのだろう?ファーストキスを一郎君に奪われ、セカンドキスも男に奪われた。僕の目から涙があふれ出る。


「声を出してみろよ、今すぐにでも山梨を殺しちゃうからな」


 僕のあらぬところを、鼻息を荒くして触ってくる井上先生が嫌で、命の危険をかけて大声で叫びそうになった。

 全身を恐怖で震わせながら僕は、必死に考える。ここで大声を出したら、生き残れる可能性はあるのだろうか?ここで静かにしていても、僕は井上先生に殺されてしまうかもしれない。どうする、僕?


「せ、先生。僕よりも恰好が良い奴もっといますよ!だから、ねっ?」


僕は先生をなんとか説得しようかと考えたが、自分自身恐怖と嫌悪感で、錯乱していて何を言っているのかわからなくなっていた。


「・・・まぁ、確かにそうだが、俺は賛同が嫌いなんだ。お前をやれば、賛同への嫌がらせになるだろう?あきらめてくれ」


な、なんだ、その理屈!?僕はあまりの理不尽さに、呆気にとられた。恐怖と嫌悪感だけだった僕の心に、猛烈な怒りが湧き上がってくる。

ふざけんじゃねぇ!!

大声で僕は叫ぼうと、口をあけた。

僕が叫びだそうとしたちょうどその時、生徒指導室のドアが叩かれた。


「静かにしてろよ。何か一言でも話したら、殺すからな」


そういうと、井上糞先生は、ドアに近づいて言った。


「なんですか?」

「先生。少しお話があるんですけど」


音楽の先生の岩済千古の声がする。


「ちょ」


井上先生が口を開こうとした時、ドアが開かれて大量の煙と部屋に複数の警察官が流れ込んできた。

酷い煙で目が見えない。あまりの煙の量に、せき込んだ。僕の目の前で、井上は見事警察官に取り押さえられた。

一体全体何が起こったのか?僕はただ呆然として、その光景を見ていた。ただ僕が助かったのだという事実に、涙ぐんだ。


「山梨君、大丈夫かな?」


いつのまにか僕の横に来ていた一郎君が、僕の肩に手を置いた。


「い、一郎君」


どうして、警察官がここに?とか色々聞きたいことがたくさんあったが、言葉にすることができずにただただ僕は、泣いていた。


「間に合ってよかった。君の帰りが遅いから、窓からこの生徒指導室を覗いたんだ。そしたら君が、井上先生に包丁を向けていたので、本当に驚いたよ」

「・・いや、普通生徒指導室窓からのぞく?」


なんとか体の震えを抑えながら、僕は口を開いた。


「あの日井上先生から僕は呼び出されてね。告白されたんだ。断ったけれどね。だから君の帰りが遅いことが心配になって、見に来たんだ」

「・・・・あ、ありがとう。本当に助かったよ、一郎君」

「いやいや、どういたしまして」


僕の前に、警察官の人がやってきて言った。


「すまないが、事情を聴きたいので警察署まできてくれないか?」


僕は頷いて、警察官の人と連れだって歩き始めた。あまりに僕の体が震えているからか、警察官の人が上着を、僕の肩にかけてくれた。


「なにか困ったことがあったら、ここに連絡をしなさい」


警察官の男の人が、僕に名刺をくれた。名刺には、警察所の榊誠と書かれていた。

僕は、頷いた。

僕は警察署で、何があったのか具体的に話した。


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