第27話 自殺マニア

「お久しぶり、山梨君」

「無事でよかったです」

「ふふ。自殺するはずの私たちが、死なないでほっとしてはだめでしょう?」

「そう、ですね」

僕は身勝手ながら百合先輩には死んでほしくなかった。大切だと思う人が死ぬかもしれないことが、こんなに苦しいことだなんて僕は知らなかった。

「百合先輩・・・・死なないでください」

「それをあなたが言うの?」

百合先輩は苦笑いを浮かべた。

「はい」

「あなたには関係ないわ」

百合先輩は服の袖をめくって、包帯にまかれた手首を僕に見せた。

「黒田さんは言ってくれたわ。自分を解放して、泣き叫んでわめいて、外にもうちにも傷をつけていけばいいって。私を連れ出してくれた。私は解放されたの。もう自由に生きていく。外面しか興味がない両親につきあうのはやめたの」

「僕は百合先輩には元気に死んでほしい!悲しい死は厭なんです」

「元気な死?」

「僕は百合先輩が大切です。死なないことが無理ならば、百合先輩には幸せに死んでほしいです。僕は・・・・百合先輩が好きです」

百合先輩は溜息をついた。

「山梨君勘違いをしていない?私そもそもまだまだ死なないわ。色んな人に色んな死に方を紹介して、明るく死んでほしいもの。私達自殺マニアでしょう?」

「は、はい!」

僕の目から涙が流れ落ちた。

「私も山梨君が好きよ」

にっこり百合先輩が微笑んだ。

「僕も百合先輩が好きです」

「・・・・山梨君、でも黒田さんには気をつけなさいね」

「え?」

「彼、山梨君に本当の死を与えたいと言っていたもの」

「本当の死?」

「肉体だけではなく、精神の死だそうよ」

百合先輩が語る黒田さんの言葉に、僕の背中に冷たい汗が流れ落ちた。

「死は千差万別。仕方なく死を選ぶよりは、明るく幸せに死を選びたいわね」

「はい」

百合先輩は微笑んで、僕に手を差し出した。僕はゆっくり百合先輩の手を握った。

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