第18話:突然ですが、商談開始です
突然、光希から選択肢を迫られてしまい、思わず動揺する楓。
「とりあえず、楓でも出来そうな仕事のポジションって前提で仕事をお願いしているから、どこのプロジェクトでも過度な要求を迫られることはないはず……」
「う、うん……」
光希はそう言うものの、果たしてどのプロジェクトに入れば自分にとって最良なのか、中々判断しづらいというのも事実。
「まあ、それぞれでやること自体は違うかもしれないけれど、仕事の作業自体は大きくは変わらないと思うし、後は目を瞑って指を差したところでも良いんじゃないかな?」
光希は軽いノリで言うが……
「で、でも……大事な企業選びだし、あんまり適当には……」
企業選びがいかに大事であるかは、様々な企業を転々とした楓がよく分かっている。
失敗したと感じた企業があるからこそ、楓は選択に慎重になっているのだ。
「……楓。忘れたのか? フリーランスの立ち位置のこと」
「立ち位置って……あっ!」
楓は、先日光希からフリーランスについての説明を聞いたときのことを思い出す。
「『フリーランスは会社に属さないで仕事だけを貰うポジション』と言っていたような……」
「そうそう。だから、プロジェクトの良し悪しの選択はあるだろうけど、企業の選択は実質無いと思って大丈夫」
「そっか……そうだったね。自由に仕事を選択できるからこそ、フリーなんだもんね」
「そういうこと」
楓は納得したように言う。
「そうしたら、一つだけ興味がある求人がありますので、ぜひそちらに応募をしたいです」
「ん……見当が付いたんだ? どれ?」
「一番最初に紹介してもらった、ライクプログラムワークスの牧場のゲームに興味があって……」
「ほほぉ……ほのぼの系ゲームを、それはなぜ?」
光希は楓に質問をする。
「私、ゲームの中でも可愛い系だったり、ゆるキャラ系のものが好きなんです」
「へぇ、今時の女子って感じだな」
「そりゃあ、今時の女子だからねっ!」
「でも、今年二十五になったら二十代後半――」
「光希くん、ちょっと黙ってて」
楓が間髪入れずに光希の言葉を止める。
年齢についてを気にする当たりも、やはりイマドキの『女子』なんだろうなと光希は感じつつ、話を続ける。
「……えっと、それで、牧場系の求人に応募をするって事で良いか?」
「はい、大丈夫ですよ」
光希の言葉に強い決断の意志を込めて、楓は返事をした。
「オーケー。そんじゃ、この後にライクのプロジェクトの人に話をしてくるからちょっと待っててくれ」
「うん、分かったよ。光希くん、ありがとう」
楓は光希に礼を言い、そのまま電話を切ろうとしたが――
「菊池さ〜ん、俺が紹介しようとしてた人、やっぱり菊池さんのところのプロジェクト選びましたよ〜」
「えっ……?」
電話越しに、光希が『菊池』という人を大きな声で呼ぶ声が楓の耳に入った。
「……っと悪い楓。今、菊池さんと電話代わるから、とりあえず軽く自己紹介だけしておいてくれ」
「えっ……! ちょ……いきなり何っ!? 光希くん、今どこに――」
楓が驚いた様子で光希に問い詰めるが、それをスルーするかのように光希は電話を菊池に渡す。
「あーもしもし、はじめましてー。プロジェクトでディレクターやってる菊池っていいますー。蒼空さんですかー?」
菊池は光希の電話を借りると、楓に向かって話し始める。
「あっ……そ、その……」
しかし、突然のイベント発生に、楓は頭の中が真っ白になってしまい、頭の上から湯気を出して動揺してしまっている。
「ああ、そのままで大丈夫やー。光希くんから、あなたは初対面の人だと少しコミュ障が発動するって聞いているからなー」
菊池はおっとりとした京都弁と大阪弁のミックス訛りで楓にそう告げる。
「そ、そうですね……はは……」
光希の言い方に怒りたいと感じている楓だが、光希の情報が、今こうして正しい内容であることを自らの言動で証明してしまい、何も言い返せずにいる。
「まあ、そのままあたしの話聞いててくれればそれでええから、ちょっといくつかご挨拶といっちゃなんやけど、ちょっと質問しても良いかなー?」
「は、はい……大丈夫です」
菊池の流れるようなトークに押され、楓はそのまま菊池の申し入れを承諾する。
「蒼空さん、アルパカって好き?」
「……は、はい? アルパカですか?」
「そう、あのもふもふで首長なアルパカなんやけどー」
「え、えっと……」
突然の
初対面の人間に対して最初に訊く質問が『アルパカが好きか?』なのだろうかと疑問に思いつつも、楓は質問に答える。
「アルパカは好きですよ。少し前にブームがありましたので、私もその頃、ぬいぐるみとかキーホルダーを集めていましたし……」
「そうなんや。実はあたしも集めててなぁ、めっちゃかわええよなぁ?」
「はい。もふもふが堪りませんよね!」
楓は無意識に笑顔になり、ベッドの上にあるアルパカの抱きまくらを抱きしめる。
そんなウキウキとした楓の声聞き、菊池は――
「うん、蒼空さんが可愛いの好きなんがよくわかりましたわ」
と、一言だけ言い、
「採用です。ぜひうちのプロジェクトに来てください」
そう、楓に告げたのだ。
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