第34話:監視させていただきます
「えっ……光希くん。まだブーストはいらないの!?」
「ああ……もうちょっとだけ。もうちょっとだけだから……」
まるで中学生や高校生の子供が、勉強するから先にゲームやりたいとゴネているのと同じなのではないかと楓は一瞬考える。
「こんなやり方で、本当に出来るのかなぁ……?」
楓は、今のゲームに没頭している姿を見て一抹の不安を覚える。
光希のことだから、ゲームをし続けて、途中で眠くなり、結局寝て起きたら昼頃になっていましたというオチが待っているのではと想像してしまう楓。
光希の仕事ぶりというのを実際に見たことはないにせよ、一人でゲームのシナリオをやらせるのは不安と感じた楓は――
「光希くん」
「……なんだ、楓?」
「私も今日、ここに泊まるからね」
と、光希に対して宣言をしたのだ。
それを聞いた光希は――
「はぁ……? 泊まるって、ここに? 何でだよ?」
楓の想定していなかった発言に、思わずゲーム画面から目を外して質問をする光希。
「だって、光希くん。なんか今のままだと何も作れず寝落ちバッドエンドになる未来しか待っていないようにみえるんだもん」
「ね、寝落ちバッドエンドっ……!?」
楓の言葉に、光希は顔をしかめる。
「そう! そんなどん底ルートしか見えない運命を変えるために、私は光希くんの仕事ぶりを監視するボディーガードとして、ここで泊まることにするの!」
楓は右手に持ったペンタブを上に掲げて宣言する。
しかし光希は――
「いやいやいや……何を言っているんだよ! 俺はちゃんとやるから、わざわざ楓が監視しなくても大丈夫だって」
楓の言葉を避けるように、両手を振ってボディーガードをお断りする。
「ふうん……ちゃんとできる、ねぇ……?」
「な、なんだよ……」
光希の言葉を復唱すると、楓は薄く笑みを浮かべて、スマートフォンで何かを打ち込んでいる。
「…………?」
光希は、楓が何を打ち込んでいるのか把握できず、ただ頭に「?」を浮かべることしかできない。
光希の理解を置いてきぼりに、楓がスマートフォンをいじり続けていると――
ティントン……と、スマートフォンの着信の音が響き渡る。
楓はすかさずスマートフォンを覗き込み、表示されているものを確認する。
そして、楓は小さく笑みを浮かべて――
「ふっふっふ……光希くん、暴いたりだよ」
と、光希に向かって楓は宣言をした。
「な、何が『暴いたり』だよ……探偵みたいな言い方しちゃって……」
光希は汗を一滴垂らしながら、構えて言う。
「会社を出たばかりの菊池さんに、光希くんの徹夜の成果事情についてを聞いてみたの。具体的にね」
「…………っ!」
スマートフォンを掲げながら言う楓。
楓の言葉を聞き、動揺する光希。
動揺する姿を見て、揺さぶりが効いていることを確認すると、楓は画面に写っている菊池のコメントを音読する。
「質問です。光希くんが徹夜した時の、成果物の納品率はどれくらいですか? 菊池さんの答え、四割くらいやな。二個に一個以上は差し戻しているわ」
「ギクッ……!」
光希に精神的ダメージが入る。
「質問です。ゲームのプレイ時間と、仕事の時間はどっちが長いですか? 菊池さんの答え、ゲームやな。ログ見たら全体の七割位はゲームやっているわ」
「ギクギクッ……!」
光希が右腕を抑えてダメージを受けている様子を見せる。
「質問です。その徹夜行為は正しい行動と思えるでしょうか? 菊池さんの答え、徹夜すんなら最新ゲームエンジンの勉強してろやっ!」
「ぐぅぅ……!」
光希が膝から崩れ落ちて、大ダメージを受ける。
「……どう? これでも、一人で大丈夫って言える?」
楓は
すると――
「い、一緒に……お泊り、しましょう……! くっ……!」
光希は涙を流しながらゲームの電源を切り、仕事用のノートパソコンを起動する。
その様子を見た楓は、右手で親指を立てて「勝った……」と心の中で確信をした。
こうして、指導員付きという形での、光希と楓の徹夜作業が始まったのだ。
………
……
…
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