第5話:新規プロジェクト!
「それでは、みんなに渡した資料を見てほしいです。今回、うちのチームで新たに作ることが決定したゲームの企画書になります」
野崎は資料を掲げながら言う。
「言わなくても大丈夫でしょうが、すごくシークレットな書類なので、会議が終わったら速やかに爆破して証拠を捨てるように」
「「「はははは!」」」
野崎の冗談で会議室に一瞬の笑いが起こる。
「さて、今回立ち上げた作品は『ヴァージニア・グロウ』という新規IPの作品で、世界観は様々な教徒が勢力拡大を図る異世界。ジャンルはリアルタイムGvGで、サービス形態はアーケードを予定しています」
「(へぇ……完全新作で、しかもアーケードか。今の
光希は心の中で感心する。
「プレイヤーは、自らの信念を抱いている教徒となり、他の教徒達と戦っていくゲームです。武器や魔法を使い戦っていくという基本的コンセプトを抑えつつ、アーケード
野崎は資料を読みながら言う。
「十代から二十代の若年層をターゲットとしていて、スマホゲームをしているユーザーに、ハイエンドで面白いゲームがゲーセンで気軽に出来るという事を伝えていき、中長期的に顧客を増やしていきたいと思っています」
資料に書かれている内容には、スマートフォンからアーケード筐体へと
使用するゲームエンジンには、いずれも最新のエンジンを使用することをコンセプトとしており、資料を見た一部のメンバーからは「おぉ〜」という小さな歓声が起こる。
「開発期間は、ひとまず二年と想定しています。専用筐体も作るから、伸びる可能性が大かもしれないですが、長く設定しても会社が予算を出してくれないので、絶妙な期間指定をしているという前提で捉えて頂きたいです」
「(まあ……新規IPかつ、アーケード筐体ありってなると、中々難しいところがあるだろうからなぁ……)」
光希は心の中で思う。
「完全に一からになってしまいますので、若手組や業務委託さんにとっては、携わった作品ラインナップにしばらく追加できないというネックはあるかもしれないですが、業界の中でも特にハイエンドなものを作っていくという信念の元で開発を進めていきますので、出来れば長い付き合いをしていただければと思います」
「(確かに、実績主義のゲーム業界からすると、二年間、何をやっているか他の会社に秘密にしなくてはいけないというのは、正社員じゃない人達にとっては致命的かもしれないが……)」
光希は腕を組みながら、うーんと考え込んでいる。
すると、その様子に気づいた野崎が、
「ちなみに業務委託で入っていただく方には、都合を訊いてアサインの調整をさせていただこうと思っています。なにぶん長いプロジェクトですので、他の仕事をお持ちの方にも考慮が必要だと思っています。調整をご希望の場合には、随時野崎宛てにご連絡ください」
と、間髪入れずに補足した。
「(さすが野崎さん、場の状況を瞬時に判断して情報を補足するとは……ディレクター歴七年は伊達じゃないぜ)」
光希は心の中で感心する。
「さて、ここまでで何か質問はありますか?」
野崎が周りを見て確認する。
「はいはいー! 質問ええですか?」
「ああ、
野崎が指を指して許可をする。
「基本的には今いる人達が、現場で開発をするんですよね?」
「うん、そうですね」
「でも、ここの部屋にいる人って、総勢七十人位おりますけど、今の社屋にそんなに人が入るスペースってありましたっけ?」
「ああ、その事ですか……」
野崎は、やはり聞かれたかと言わんばかりに、その言葉に反応する。
「その事についても併せて説明をしようと思います。資料の最後の方を見てもらっても宜しいでしょうか?」
「最後のページ?」
華野が首を傾げながら、資料をパラパラとめくっていく。
すると――
「あっ……仮社屋」
華野が少し驚いたように言う。
「うん。実はこのプロジェクト、皆の予想よりも随分と期待を貰っていまして、開発チームが同じ環境で働けるようにと、本社の横に出来たばかりのフォレストパークビルのワンフロアをうちの会社名義で借り上げることになったのです」
「マジかよ……予算のかけ方すげぇな……」
原田が普段見せないような驚いた表情を見せている。
「出来たばかりのオフィスだから、さぞきれいな環境で仕事ができるんでしょうね」
佐々木もウキウキとした表情をして言う。
「すごいなぁ光希。あたしら、あそこで働けるんやって」
「ああ……ペンタゴン・ユニックスの財力すげえな」
光希も予想以上の気合の入れ方に、驚いている模様だ。
「まあ……元々、会社の方で人員増加に伴ってオフィスを当たらに新設したいっていう話があったようで、そこでたまたまビルが出来るからどうだっていう話が来て、タイミングが良い時に色々と決まっていったという感じです」
野崎がそう説明する。
「新しいオフィスでは、ペンタゴン・ユニックスのハイエンド部門が開発をするという環境で株主にも説明をしているようだから――」
「もし、このプロジェクトがコケたら死ぬほどヤバイですね」
「……うん。さすがの僕も、膝ガックガクだよ」
野崎がグラサンを取ると、少し苦笑いをしながら
「……でも、成功したらゲーム史に残るような作品として永遠と語り継がれる英雄に慣れる――ですよ、野崎さん」
光希がフォローを入れるように言う。
「そうですよぉ。失敗なんかより、こんな大きなプロジェクトに参加させれもろてる時点で、絶対成功させようって思いますやん」
華野が両手を強く握りしめながら言う。
「そうっすよ野崎さん。若手の俺らはちょっと頼りないかもしれないっすけど、それでもこんなに大きなプロジェクトに参加できるってんですから、本気出しますって」
原田も大きな声で言う。
「うん。僕も頼りがいがあるメンバーで大変安心感があるよ。みんな、絶対に成功させましょうね」
「「「はいっ!」」」
会議室の中で大きな返事が響き、プロジェクトに対する熱い一体感が生まれた。
そして、プロジェクトに関するその他の説明が二十分ほどされた後、キックオフミーティングが終わった。
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