第17話:仕事の選択肢は5つある
光希からの予想外の言葉に、思わず驚く楓。
全く仕事が無いのでは……という予想を完全に外してしまい、思わず間抜けな声で光希に返事をする楓。
「で、でも……事務員以外の仕事をしたことが無いのに、どうして?」
楓は、なぜ自身の予想を外してしまうような経緯となったのか、光希に質問をする。
「楓が前見せてくれた絵があるじゃん。例の風景のやつ」
「えっと……前に見せたスケッチブックのこと?」
「そうそう。あれを写真で撮影して、知り合いの人たちに送ったんだ」
「そうなんだぁ。でも、スケッチブックの絵を見せるだけでよかったのかな……?」
時間を描いた作品であるけれども、プロの人に見せるとなると、やはり恥ずかしさが残る楓。
「まあ……それこそ過去の経験がないから、あれしか見せるものがなかったんだ。楓にとっての唯一の武器だからね」
そう光希は言う。
「それで……あの絵の評判ってどうだったの……?」
楓は気になり、充希に質問をする。
「そうだなぁ……五社のプロジェクトリーダーに見せて、それぞれ微妙に反応が違ったけど、総じて言うなら――」
「う、うん……」
「絵に対する情熱を強く感じて、今後の成長が楽しみという評価は共通してあった」
「えっ、本当ですかっ!?」
楓は声のトーンを上げて充希に訊く。
無意識にまた丁寧語で話している。
「ああ。後は、もうちょっとこう描いてみたほうがいいんじゃないかーとか、色使いはこうだーとか技術面でアドバイスを貰ったけど、絵を描いたことない俺が聞いても意味が解らなかった」
「えー! せっかくのプロの感想なんだから、もうちょっとちゃんと答えを持ってきてほしかった〜!」
「はは、ごめんごめん」
拗ねる楓をなだめるように、光希は楓に謝罪する。
「でもまあ、厳しい評価をする現場の人間に『今後の成長が楽しみ』と言わせるくらい、楓は現場の人間に気に入られやすい体質ってことなんだよ」
「それって凄いことなの?」
「凄い部類だと思うよ。特に職人気質が強いデザイナーにとって、他の人の作品を純粋に褒めるって言うことはなかなか無いし」
「へぇ、そうなんだぁ……」
楓は答える。
「それで、今回オファーが来たのが五件。いずれもゲームなんだけど――」
「うん……」
「まず最初の二つは、ライクプログラムワークスという老舗のゲーム会社で、牧場ゲームとパズルゲームのプロデューサーから世界観のデザインについてということで連絡が来ている」
「うん。他にも格闘ゲームだったり、シューティングゲームを作っている会社なんだね」
楓はノートパソコンを起動して、ライクプログラムワークスのホームページを確認しながら答える。
「主にアーケードゲームをメインで制作している会社だけど、家庭用ゲーム機向けのゲームも継続して作っている部門もあって、そこは若手を育成する意欲がある人が多いから、今回どうだろうかという話があったようだよ」
「へぇ〜、未経験の私からしたら、それはとてもありがたいシステム」
「確かに……ゲームの会社だと、特に研修する企業は圧倒的に少ないから、こうして人の育成に力を入れているというのは良い企業である証拠だよ」
そう光希は言う。
「ゲームの会社って、そんなに研修少ないの?」
「そりゃあ超大企業とかならあるっちゃあるけど、大抵はやる気があるから来ているんでしょ前提で、ある程度の知識を持っている事と、現場に置いたら学んでいくだろうみたいなスタイルが割とメインになっているかも」
「う〜ん、自分が常に頑張り続けないといけないって感じなんだね」
華やかな業界だと思ったが、おもったよりもシビアなところなのだと痛感する楓。
「……とまあ、そこがまず最初の二件で――」
「うん」
えっと次は〜と呟きながら、光希はスマートフォン越しにパソコンを操作して、次のリストを表示させる。
「次がSUGURUという会社で、スマホ向けの音楽ゲームデザインを出来ないだろうかって返事が来ている」
「SUGURUって、あのSUGURU?」
聞いたことがある企業の為、充希にもう一度確認してみる楓。
「あのSUGURUで間違いないよ。ここも老舗の会社の一つだね」
楓がホームページでSUGURUの会社を見てみると、昭和の時代からゲームを作り続けている事が、会社の歴史を紹介しているページで分かる。
「ここの会社はスマートフォンゲームの案件だけど、過去にゲームを開発してきた人達と一緒に仕事ができるから、現場で覚えながら経験できるという点では強いと思うよ」
「確かに……見てみるだけでも色々と覚えられそう」
過去の販売作品の数々を見てみても、そのデザイン性はやはりトップクラスのものばかりで、見ているだけでも楽しそうな表情をする楓。
「しかしまあ……やはりクオリティにこだわる人達が多いから、追いつけないと辛いかもっていう点はある」
「そっか……やっぱり大企業で出すゲームだもんね……。こだわりはあるだろうし」
高いクオリティを提供し続けるためには、それなりの努力が必要不可欠なのだろうと痛感する楓。
「それで、最後の二件だけど――」
「うん」
光希が更にパソコンで操作して、資料を探す。
「最後は、ペンタゴン・ユニックスのパッケージデザインと、ホームページのデザインの部門から連絡が来ている」
「ああ、ペンタゴン・ユニックスも知っています。スタークエスト出しているところだよね」
楓は思い出すように言う。
「そうそう。国内のゲーム会社の中では、周りを出し抜いてシェアがでかい会社だね」
「色んなところで社名を見るもんね」
ペンタゴン・ユニックスは年間売上高数千億を誇る会社で、あらゆるメディアに着手して成功を収めてきている。
その技術もやはりトップクラスで、時代の変化とともに常に進化を繰り返してきた会社と言っても過言ではない。
入社志望をするクリエイターも多く、まさに最前線でものづくりが出来る会社と言われている。
「ペンタゴン・ユニックスの場合、仕事方法は分業制だから、一つの分野に的を絞って働くことが要求されるんだ」
「だから、ここの場合はゲームじゃなくてデザインがメインの求人なんだ」
「そうそう。会社が大きくなったのは、やはり技術力の高さが評価されているのが理由だから、完全なる実力主義社会の塊っていうやつが適応されている」
「へぇ、大手なのに珍しい……」
楓は言う。
「学歴判定が無いことも無いけど、純粋に絵が上手い人、プログラムが打てる人、企画の想像力が豊かな人は、高学歴の人より圧倒的に優遇されるのは確かだね」
「じゃあ、私もデザインを極め尽くせば……」
「そりゃあ……それなりに良い思いが出来ると思うよ」
光希はそう答える。
「……とまあ、これで五つ全ての求人を紹介したわけだけど、ラインナップとしてはどうだった?」
「うん。今まで全く縁が無かったような有名企業を紹介されてびっくりしているのと、頑張れば認めて貰える業界なんだっていうのがよく伝わってきたよ」
楓はそう言って、スマートフォンを強く握りしめる。
それは、無意識に楓の心が頑張りたいと強く感じた証なのかもしれない。
「それで、この五つの選択肢の中から、どれを選びたい?」
「えっ? えっと……そうだなぁ……」
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