4-2
「あ~・・・・・・・、くそっ。」
千葉工科大学の構内になる中庭。
中庭と言いながらも大きめの池があるそこで連人は午前の講義に溜まった疲労をぶちまける様に乱暴に足を縁に掛けながらも座り込むと、文句を言うように口を開いてその様に言った。
「マスター、その。」
愛はそんな連人を気遣ってか彼にすまなそうに声を掛ける。それは彼を心配してからであろうが、連人にとっては今はそんなことなど気にかける余裕はなく、単なる嫌みの様にしか聞こえなかった。
そのため、彼女に冷たい口調で強く当たる様に言ってしまう。
「気にするな、愛。」
「ですが、マスター。」
「気にするな。」
もう一度だけ、気にするなと強く言うと、彼女から視線を外して忘れ物がないかどうかを確認するために教科書類が入っているバックパックに手を入れて、がそごそと中を見ながら確認する作業に入ってしまう。
「午前は数学だけで・・・・・・・・・・・・・、午後は体育だけ、と。忘れ物は・・・・・・・・・・・ないな。よし、ないっと。」
「あ~、手束!」
「はい?」
その様に確認している連人に向かって誰かが声を掛けてくる。
彼はその声に反応するために顔をバックパックから外して、声がした方向を見る。彼が見ると同時に愛は数歩彼から離れる。
「葵先輩?」
「うっす、手束。ネタ、取れた?」
その人物は女性の様に愛から見れた。と言っても、愛の様に男性が着そうな服装で身を包んでいるために、女性だとは断言はできなかったが、男性が持っているような胸ではなく、女性固有の胸元みたく少し膨らんだ胸元をしていた。瞳も男性とは同じように鋭く細い瞳をしているが、連人の様に力強さを感じるモノではなく、女性がする瞳らしくどこか優しさを持った瞳だった。
愛にはファッションなどさっぱり理解は出来なかったが、彼女は首から下げる様に一台のカメラを首からぶら下げていた。
「いや、特には。」
「いいネタはなかったって?うまく冗談言ったつもりかな、手束?陸上自衛隊の車両が来てるってのに、撮るつもりはないって?それでも、新聞部かな?」
「自衛隊の車両撮ってもカメラを回収されて終わりなのが目に見えてるじゃないですか。」
「そこは、ほら。最近、なんか出るようになったガラクタどもでも撮ってさ。」
「ガラクタ・・・・・・・・?」
「そうそう。最近なんか街に出るようになったらしくてさ。昨日はそれの処理に陸自が動いたみたいだよ?」
「陸自が・・・・・・・・・・?ってことは、特式機甲連隊がってことっすか?」
「いや、そこは分かんない。私、手束よりも詳しくないからさ。」
「待ってください。その情報は確かなのですか?」
「確かに何も。この私、
愛は確かめる様に彼女、真実にそう問いかけた。当の真実はそう答えたのだが、愛のことは一切知らないために、愛を見ると、パチパチっと数回瞬きをした。
「・・・・・・・・・・誰、君?」
「マスター。」
「あぁ。・・・・・・・先輩。ガラクタが出たんなら、なんか大きい『巨人』みたいなデカブツも出ませんでしたか?」
「なにそれ?私は聞いてないけど、それ。」
「了解っす。・・・・・・・・・・聞いたな、愛?」
「ja。『巨人』が出ていなければ、『アイゼン』での感知も出来ません。・・・・・やれましたね。」
「まぁな。だけど、そうと分かったらいいじゃねぇか。」
「そうですか?」
「あぁ。」
「ちょいちょい。ちょい待った。」
連人と愛が自分の知らないことについて知っているような会話をはじめ、会話の蚊帳の外になっていた真実は二人の会話を割る様に片手を二人の間に入れて上下にぶんぶんと大きく振りながら話に入ろうとしてくる。
「なになに、二人して。なんか知ってるの、手束?それとこの子誰?大学と無関係な子を校内に入れちゃだめだよ?なんかされちゃっても、私知らないよ?」
「心配はいりませんよ?」
「はぁ~い、貴女はちょっと黙っててね。手束、説明して。」
「マスター・・・・・・・・。」
心配するように自身を見てくる愛に連人は心配するな、というように軽く手を振りばら愛に向けて微笑んで見せると、彼は真実の方へと視線を向けた。
「葵先輩。」
「なに、手束?」
「この子は・・・・・・・・・・・・・、俺の妹・・・・・・の手束愛って言います。無関係ってわけじゃないです。」
「妹さん?・・・・・・・・にしては顔とか、髪色とか似てなくない?」
連人は愛のことを自身の妹であると真実に言うが、そう聞かされた真実は疑心暗鬼にそう言うと、愛の顔と太陽に照らされて銀色に輝く長い髪をじっくりと見る様に彼女を見た。
彼は真実から指摘された言葉に対して用意していた言葉を彼女に言った。
「よく言われるんですよ。兄妹にしては似てないよねって。なぁ、愛?」
「・・・・・・・・・えっ?」
彼が言った言葉に対して愛はなぜ彼がそんなことを言ったのか理解が出来ずに彼に聞き返す様にそう言ってしまった。だが、彼はそんな彼女に対して怒ることなく軽くウィンクをすると彼女に顎を振った。
「え、えぇ。よく言われるんですよ。ねぇ、マス・・・・・・・・・、兄さん?」
「そうそう。いやぁ~、困りますよね。はははっ。」
「えぇ。困りますよね、ははは。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・ほんとに?」
「えぇ、ほんとに。よく言われるよな、愛?」
「えぇ、よく言われますよね、兄さん。」
「ふぅ~ん・・・・・・・・・・・・・・?なら、あんまり聞かない方が良さそうね。ごめんなさいね、手束兄妹?」
「気にしてないです、葵先輩。」
彼がそう言うと、どこかまだ引っかかるのか、頭の後ろの搔きながら真実は二人から目を離した。その瞬間を見計らって、愛は連人の隣へとそそくさと移動して彼に耳打ちをした。
(すみません、マスター。)
(気にするな。あと、俺のことはさっきみたく兄さんでいい。)
(よろしいので、マスター?)
(別に怒りはしないさ。それとも、命令しようか?)
(ja。であれば善処します、マス・・・・・・・・・兄さん。)
(それでいい。)
そう言って会話を切ると、愛の頭に手を置いてわしゃわしゃと乱暴に彼女の頭を彼は撫でた。彼女は彼のその動作に一瞬顔をしかめるが、その感触が気持ちいいのか目を細めて彼の手の感触を味わっていた。
「それじゃ、特にネタはないわけだ。」
「そうなりますかね。」
「了解~。・・・・・・う~ん、そうなるとネタ探さなきゃね。」
「そうですね。」
「うっわ、他人事だ~。手束、あんたも新聞部の部員なんだからちょっとは働きなよ。」
「身体動かしたくはないんですよね、俺。」
「ハハハ、冗談がうまいね、手束!今のは上手いよ!」
「いや、動かすのはあんま好きじゃないんですけど、俺。」
二人の会話を聞いて愛は連人の着ている上着をちょいちょいと引っ張ると彼に質問をする。
「新聞部とはなんですか、兄さん?」
「えっ、言ってなかったっけか?」
「nein。聞いていません。」
あっ、やべ。
彼女の言葉を聞くと彼はしまったと、己のミスを呪った。
「新聞部ってのは、ここ、千葉工業大学の文系の部活動の一つでな?」
「ja。それで?」
「そこに入部って形で入っているんだわ、俺。」
「ja。そうなので?」
「そうなの。」
「葵さん。」
「なに?」
愛は連人を無視する形で真実に訊く様に彼女に言った。
「兄さんは新聞部に籍を置いているのですか?」
「置いてるっていうか・・・・・・・・・・・・・・・・置かしてもらってるっていうか・・・・・・・・・・・・。」
「兄さん?」
真実の言葉を聞いて理解が出来なかった愛は連人に説明を求める様に彼に訊いてくるが、その彼女の目はどこも笑っているような優しいモノではなく、どこか冷たい様に感じるほどのものだった。そんな彼女の目に見られて、連人は身体が震えるような冷たさを感じて身震いするような感触に襲われる。
「ど、どうした、愛?」
「ja。説明を求めます。」
「説明って言ってもな・・・・・・・・・。入って、ってほぼ強制的に入れられて、まぁ、幽霊部員みたいな感じでいさせてもらってる感じかな?」
「幽霊部員?」
「あ、あぁ。部活動に入っていたら、部活動には属しているってわけで赤点とかは 免除されて単位とか貰えるって話でな。」
「それでは、部活動はしてはいないのですね?」
「ま、まぁ、してなくもないんだけどな。」
「していないんですよね?」
「い、いや、だから。」
「・・・・・・・・・していないんですよね?」
圧力を掛ける様に何度も訊いてくる彼女の言葉に連人は押し負けてコクリと静かに頷くと同時にガクリという様に身体をうな垂れてみせた。
その様子の彼を放置する形で愛は真実を見た。
「な、なにかな?」
真実は先程の様子を見て愛に対して恐怖心を持ってしまった様子で愛に何かと問い詰めるが、愛はそんな彼女の様子などあもさも知らんと言うかの様子で、連人に訊いた時と同様の口調で彼女に訊いた。
「兄さんにも訊きましたが、部活動には参加してはいないんですよね?」
「い、いや、でも、籍は置いておいてもらってるから関係なくは・・・・・。」
「関係ありませんよね?」
「い、いや、だから・・・・・・・・・・。」
「関係ありませんよね?」
「か、関係なくはな・・・・・・・。」
「関係ありませんよね?」
「うぐっ。」
真実が息を詰まらせると、愛は勝ち誇ったような顔で彼女を見て、彼女を軽く鼻で笑った。
連人はそんな二人のやり取りを見て愛がただの世間知らずな引きこもり制御用AI少女と見ていた意識を変える様に強く決めた。
「なんですか、兄さん?」
連人が何も言っていないにも関わらず彼女は彼の視線から何かを感じ取ったのか、彼に何か用かという様に、彼にそう言った。
「いや、なんでもないさ。・・・・・・・・あぁ、なんでもないとも。」
「ja。そうですか?どこか、私のことをただの引きこもりの世間知らずな妹だと仰るように私のことを見ていたみたいでしたので。」
「ハ、ハハハ、そ、そんな目で、お、俺が、お、お前のことを見るはずがないだろう。ハ、ハハハ、じょ、冗談が上手いなぁ、愛は。」
「ja。お褒めに預かり恐悦至極感謝の極みにございます、兄さん。」
彼の言葉のどこをどう取ればその様に解釈が出来るのか、愛は彼の言葉を嬉しそうに受け取ると、その様に言葉にして彼に対して腰を折った。
彼女のその様子を見て、連人はどこが『制御用AI』とか言ってるのか、どこからどう見ても人じゃないか、と口にして言うことなく、心の中でその様に静かに言った。
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