6-3
午前の講義が終わって昼食を取るために連人と愛の二人は食堂に来ていたのだが。
「あ~・・・・・・・、なんだ。ちょいと道開けてくれないかな?」
「あぁん?・・・・・・・・おいおい、今の聞いたかよ!?正義のヒーロー様が俺たちに道を開けてくれとよ!!」
「ハッハッハ!!笑えるな!!道を開けなかったら、どうするって言うんだよ、なぁ、おい!!」
「後ろにいる女にカッコいいとこ、見せたいだけだろ!!笑えるなぁ!!」
食堂の入り口に立ち塞がる様にして三人の学生が連人の目の前に立ち、進路を妨害しているために、二人は食堂に入ることが出来なかった。連人は目の前にいる三人などどうでもよかったのだが、連人の後ろにいる愛から少し不穏な気配を感じ、額に冷や汗を垂らしていた。
「いや、中に入らないと飯が食えないからどいていただけるとありがたいって言ってるんですけどねぇ。」
「おいおい、一年が二年に喧嘩売ってるのかよ。」
「喧嘩って・・・・・・そんなつもりはないですよ・・・・・・。」
「そんなつもりはないってことは他のがあるんだな?」
「いや、ですから・・・・・・・・・・。」
「へっへっへ、後ろのお嬢ちゃんと一緒にご飯食べるだけだろ?だったら、別にちょいと時間くれる暇くらいあるよなぁ?」
「時間はあるかもしれませんけど・・・・・・・・。」
「オ~ケ~だ。ならちょいとお話でもしようか。」
「それじゃ、お前らがお話してる間、このお嬢ちゃんと気持ちが良いことしてくるわ。」
目の前の三人とは別に後ろから二人の学生が現れる。その二人は躊躇することなく愛の片腕を掴んだ。
「っ・・・・・・・・!!」
彼女は掴まれたことにひどく嫌悪感を表した表情で腕を掴んできた男子生徒を睨み見た。
「おぉ~、怖いねぇ~。」
「ひゅ~、強がりか?可愛いねぇ~。」
「放してください・・・・・・・・・っ!!」
片腕を放す様に振い上げ様と愛は腕を上げるが、そこは女性に勝る男性が力では有利になるため、片腕を上げた程度では男子生徒の腕を掴んだ手を離すことはできなかった。
「そういうわけだ。ってことだから、俺たちと少しお話しようか?」
「なぁに、心配はいらねぇよ。お嬢ちゃんはそいつらが可愛がってやるから。お前は安心して、自分の心配しな。」
「そうそう。自分の心配しないと・・・・・・・こうなっちまうからなっ!!」
連人の油断を突いた気でいたのか、目の前の男子生徒は何気なく繋げた会話の流れから、連人の胴体に向かって拳を打ち出した。
ドゴンっ!!
連人の胴に打たれた拳が彼の胴に打ち放たれて当たった衝撃音が静かに響く。強い衝撃を受けたからか、彼の大きな胴体が少し揺らいだように愛には見えた。
「っ!!兄さんっ!!」
「おっと、心配はいらないよ、お嬢ちゃん。」
「そうだぜ。俺たちはこれから気持ちいいことをするんだから。」
へっへっへ、と愛の後ろにいる二人の男子生徒たちは聞くに堪えないひどい笑い声で笑うが、愛の耳にはその言葉もその笑い声も聞こえなかった。
彼女の目には、彼女が認めた主であり、兄と呼んでいる彼の姿しか見えなかった。
彼が倒れゆく姿が彼女には思い浮かばなかったが、目の前でこの様に胴を打たれ倒れゆく姿を見て、自分の中で彼は倒れることのないなにかに近いモノだと思っていたことに自身を恥じた。
彼はヒーローではない、と彼自身で言っていたにも関わらずに、だ。
愛が自分の中の連人のイメージと現実は違うと思っていた時、男子生徒たちも連人はそのまま倒れるモノだと思っていたのだろうが、彼が倒れることなく立っていることに疑問を持ち始めたとき、倒れかけていた彼が上体を上げた。
「・・・・・・・・・・っか~、いい拳じゃねぇっすか。プロめざしてやったほうがいいんじゃないっすか?こんななよなよの鍛えてない野郎にはもったいない拳ですね。」
「なに・・・・・・・!?」
まぁ、それでも、と言葉を続けようとした彼は拳を打った男子生徒の手を掴むと、躊躇することなく腕を捻り上げた。
「高校時代に身体鍛えてた野郎にはあんまり意味がないですけどね。」
「いたたたたたたた!!腕が!!腕が折れちまう!!」
「んな簡単には腕は折れませんよ。知ってますか?人間の腕とか脚とかそう簡単に折れる様には出来てはないですよ。踵とかは二階から変な姿勢で降りた程度でダメになりますがね。」
ま、治りは早いですけど。
そう言った瞬間、彼はパッと捻り上げていた腕から手を放す。
「いたたたたたた!!あぁ~、いてぇ~!!折れてないよな?大丈夫だよな?」
「てんめぇ!!」
「舐めたことしてくれんじゃねぇか!!覚悟は出来てるんだろうな!!」
「覚悟?」
あぁ。
「とっくに出来てるよ、んなもん。」
「舐めてるんじゃ・・・・・・・・・!!」
大きく腕を振りかぶった男子生徒に連人は躊躇うことなく、前にいる男子生徒に向かって足を踏み出した。
「なっ!!」
彼が躊躇って足を踏み出すことはないだろうと思っていたのか、自分の予想を裏切る形で前に出てきた彼の行動に驚いたかのような声を男子生徒は出した。だが、既に彼に向かって打ち出そうとした拳を止めることは簡単に出来ることではない。そのために、男子生徒が止めようとした方向とは違う真っ直ぐの方向に向かって拳が放たれる。
連人はその拳を止めることなく、ただ向きを変える様に手で力の流れの向きを変える様に手で受け流した。
「うおっ!?」
彼に向きを変えられた男子生徒の拳は変えられた方向に向かって、ただ流れていくのみ。そして、男子生徒が一歩足を踏み出そうとした瞬間に、連人は彼の襟首を掴むと、右足を前方に振り上げる様にして上に上げるとその男子生徒の足を刈る様にして足を刈った。
「がっ!!」
足を刈られて立っていることが出来なくなった男子生徒とは背を地面に打つ様に倒れるが、連人がそう易々と倒れることを許さない様に襟首を掴んだ手に力を込めるが、別にいいか、と判断したのか普通に男子生徒を地に倒した。
「てめ・・・・・・・・・・・調子に乗ってるんじゃねぇぞ!!」
その彼の動きで自分たちとのレベルの差を感じるのが普通なのだが、彼の視界から姿が映っていないことを隙だと思ったのか、もう一人の男子生徒が連人に向かって拳を打ち出した。
だが、彼は何もすることなかった。
ゆえに、拳は彼の身体に当たるが、今度は何も音は響くことはなかった。
「へっ・・・・・・・?」
「軽いなぁ・・・・・・・・・。」
軽いと言った彼の言葉が理解できない様子でポカンと呆然とした様子で男子生徒は連人を見たが、彼は躊躇することなく男子生徒が放った拳の腕を掴むと、後ろに引きながら、男子生徒の襟首の後ろを掴んで・・・・・・・・。
「はい、一本っ!!」
男子生徒を背負う様に大きく投げた。
「背負い投げだと・・・・・・・・?」
「おい、これ。なんかヤバくねぇか?」
「兄さん・・・・・・。」
前にいた三人があっという間に地に倒れる格好となり、愛の後ろにいる二人は交互の顔を見合って、どうするべきかを言葉ではなく目で話し合う。
そうしている内に、連人はゆっくりと振り返る様にして後ろに身体を向けて愛と彼女の後ろにいる二人を見た。
「さて。残ってるのはあんたら、二人なわけですが。さっき、愛と三人で気持ちのいいことしようか、とか言ってましたよね?・・・・・少し話し合いませんか?」
「ヒッ!!誰がそんなこと言ってたんだよ、なぁ!?」
「そ、そうだぜ!!誰が言ったんだよ、そんなこと!!」
「それじゃあ、彼女の腕から手を放してもらえませんかね?・・・・・・それとも、話し合いますか?」
「い、いや、話し合いは遠慮しておくよ。」
連人から言われて慌てた様子で愛の腕を放すと、地に倒れた三人を肩に担ぐようにそそくさと急いだ様子でそれぞれの肩に担ぐと、その場から急ぐように去って行った。
そうしてペッと二人が逃げていった方向に唾を吐き捨てた。
「ったく、喧嘩売るならもう少し鍛えるか、連れにいいやつ入れろっての。」
「大丈夫ですか、兄さん?」
「あぁ?・・・・・・あぁ。あのガラクタ・・・・・・・『ベルセルク』だっけか?あいつらよりも手応えがなくてウォーミングアップにもなりもしなかったぜ。」
「・・・・・・・・・いつもの様に、一っ飛びとはいかなかったと?」
「あんなんじゃ、全然飛べねぇよ。まだ『ベルセルク』相手だったら、飛べるんだがなぁ・・・・・・・。」
難儀なもんだなぁ、と言いながら、財布を出すと定食メニューが飾られているガラスケースを連人は見て、愛に訊いた。
「俺はいつものように大盛りカレーにするけど、お前はどうする、愛?」
「えっ、私ですか?」
「俺の傍にいる愛って名前の可愛い女の子はお前以外誰がいるんだ?」
「くすっ。ja。そうですね。・・・・・では、私もいつもの様にA定食にしましょうか。」
「たまにはB定食でもいいんだぞ?そんなに値段が変わるもじゃないしな。うどんでもいいんだぞ?あぁ、だけど、ラーメンはやめとけ。ラーメン食うならカレー食った方がまだいいぞ。」
「あの、兄さん。私はA定食で良いので。他をおススメされても困ります。」
「えっ、食わないの?」
「ja。」
「ま、それが無難だわな。」
先程のことはそれほど気にすることはないことだと言うかのように、彼女と他愛ない会話をしながらすでに買ってある食券を取り出すと、彼は彼女に食券を渡して食堂に入って行った。
「兄さんにとっての日常を私が壊した・・・・・・・・。いえ、壊してしまった・・・・・・。」
彼女は彼の後には続かずに一人ぽつんとその場に立っていた。
「私が壊した・・・・・・?いいえ、彼は壊すことを望んでいた・・・・・・。その証拠に彼のあの力は、壊すために生まれた・・・・・・・。」
私がそうしたのかもしれませんね、と彼女はただ独り言を呟いて外の様子が映る食堂内の外ガラスから空を見た。
「貴方は、何を壊そうとしているのですか・・・・・・・?それとも、何かを壊すために力を願ったのですか・・・・・・・?」
ここにはいない誰かに向かって問い質す様に、彼女はただ独り言を呟いていた。彼はどう思っているのか彼女には分からないが、ここ数日のあの戦いの中で、彼が新たな力を現す度に、彼が本当は何をどう思っているのかということはおおよそではあるが、見当は付いていた。とは言っても、全てを見ているわけではなく、ほんの少し、チラッと見た程度でしかないわけだが。
それでも、彼の力はどの様なモノなのか、どの様に欲し形となったのか、おおよそ予測は出来てはいた。
だが、彼は彼女の予測とは違った行動をとっている。
壊すために力を振うのではなく、守るために力を振っているのだ。
それが彼女にとっては理解し難かった。
壊すために得た力だと分かりながら、守るために振るうというのは一見すれば矛盾していると言える。そうなれば、彼は自分自身で矛盾という大きな欠陥を自身に刻み込んで戦っていることになる。
それは、いずれ彼は自分自身の手で・・・・・・・・、いや、いずれ彼は矛盾だということに苦しみ、壊れてしまうだろう。
人間の構造は機械である愛には理解は出来ない。彼女は人間ではないのだから。
彼は何をどう思って行動しているのだろうか。
(人間とは、面白い生き物です。)
だが、彼らはその生き物がいるこの世界を壊そうとしている。
「ならば、私はこの世界を守りましょう。」
彼がいるこの世界を。
そんなことを思っていた愛を心配してか、連人は愛が立っている入り口まで戻ってくる。
「どうした、愛?腹でも痛くなったか?」
「nein。あの、兄さん。私は人と違って機械ですのでその様になるのは構造的に少し難しいではないかと。」
「うん、知ってた。知ってたけど、冗談には冗談で返せよ。お兄ちゃん、泣いちゃうぞ?」
「ja。ならば、善処はしましょう。」
「善処は、ね。後で忘れたってのは、無しだぞ?」
「ja。頑張ります。」
「冗談で返すなよ・・・・・・・・・。」
彼は彼女の言うことを冗談と受け取ったらしい。
人間は難しい生き物です、と彼女は自分の認識を改めて再確認することになった。
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