6-2
「なぁ、あれ・・・・・・・・。」
「あぁ、そうだよな・・・・・・・・。」
大学に着くなり、周囲からの視線を感じて連人はその視線がする方向を見た。
だが。
「ひっ!」
「ひっ!」
見れば見たで小さな悲鳴を上げる様な声を上げられ、そそくさとその場を後にするという現象に遭ってから早数分、連人の心は少しだけではあるが折れかかっていた。
「兄さん・・・・・・・・・・。」
彼を心配するように愛が後ろから彼に声を掛けてくるが、連人はそんな彼女に片手を上げることで応えた。
「いや。別にそこまで気にする事じゃねぇよ・・・・・・・・・。」
「しかし・・・・・・・・・。」
「いいから。気にするな・・・・・・・・・・・。」
心配する彼女に対して彼は気にするなというが、気に掛けるなと言われるのが返って心配になってしまう愛であった。そんな彼女の様子に彼も心配になるほどなにか不味そうに見えるか?と自身の状態に自問するが、そんなわけはないだろうと自身の問いを打ち消している時点で相当不味いと言った状態であることに気付けずにいた。
「なにか、あったかな・・・・・・・・?」
思い当たることが思い浮かばずに、連人は首を傾げる。その彼の言葉に彼の後ろを追う愛も彼がしているのと同様に考える。
昨日あったことと言えば、自衛隊数機との共闘で四体ほどの『巨人』を倒したくらいで、戦闘の後、愛に『一人では行かずに、俺を待ってから戦闘に向かう様に。』と強く釘を刺した程度だろうか・・・・・・・・。いや、それと損傷を受けてしまった『シュツルム・アイゼン』の修復に少しばかりの時間が掛かってしまうことが愛の口から分かったことだろうか・・・・・・・・。いや、それは戦闘の後の話であって戦闘があった時の出来事ではないはずだ。
だとすれば、どんなことだったか。
そんなことを思いながら、二人は校舎の目の前にある大きな建物、『学生館』という名前になっている建物に入っていき・・・・・・・・。入り口に貼られている紙を見て動きが止まった。
その紙のタイトルには『新聞部号外』と書かれており、連人が自身の姿を変えたモノ、『マスクドガイ・ザ・パワード』の姿を撮った姿と連人の変身前の普通の姿を写した写真が比較するように映されていて、『仮面のヒーロー、街を救う!!』などと題名が書かれているのが目に見えた。
「こ、こいつは・・・・・・・・・・・。」
何も話せない様子で立ち竦んでしまった彼の背を押して、記事を見る様に、「失礼します。」と言いながら、愛は記事を見ながら口に出して読んだ。
「昨日、陸上自衛隊が保有する特式駆動兵器第一世代『雷光』、第二世代機『月光』を含めた計三機が街に出現した大型機体の鎮圧に向かったが、現場には既に小型機体数十体が戦闘を開始していた。この画像は、当千葉工科大学に属する新聞部が撮影した画像である。その小型機体を無力化するために、民間人である当大学に属する学生、一年生手束連人が画像にあるとおりの仮面の姿へと姿を変えた写真である。こうした異常事態に備えて警察や自衛隊などの組織はあるはずなのだが、民間人たる学生が身を犠牲にして戦うとは如何なモノだろうか。今後とも彼の勇姿を我々、千葉工科大学写真部は追っていくものである。・・・・・・・・・・だそうですよ、兄さん。」
「俺に訊かれても困るんだが・・・・・・・・・。」
「ja。それはたしかにそうですよね。現場の到着が早いのは陸の移動が速い陸上自衛隊よりも空中を飛行できる『アイゼン』あってからこそできる芸当であって、兄さんが早いというわけではありませんよね。」
「まぁ、そうだけどよ・・・・・・・。それを言ったら、お前だけで倒せるか?この前は自衛隊がいたからどうにかはなったけどよ・・・・・・・。」
「ja。それはたしかに兄さんの言う通りです。それが原因で『アイゼン』は損傷を受けましたし。私一人だけではもう行いません、兄さん。
「あぁ、それはもう聞いたから分かってるんだけど・・・・・・・・・。にしても、この記事はどういうことだ?勇姿ってのも・・・・・これじゃ、正義のヒーローだかに祭り上げられてるように思えるな。」
昨日の晩から深く反省している様子で何度も聞いた言葉を『それはもういいから』という様に彼女に向かって軽く片手を連人は振りながら、この記事がどういった意図があって作られたモノなのだろうかを探る様に呟いた。
「正義のヒーロー・・・・・・・・・・・ですか?」
「あぁ。こっちの世界で言うところの
「
「日曜の朝にテレビ番組で活躍してる架空のヒーローだな。言うなれば、特撮界のレジェンドってやつ。」
「そのヒーローに祭り上げられていると、兄さんはお思いで?」
「なんかな。・・・・・・・・個人的にはそんな人たちと肩並べるほどのことなんざしてないんだが。」
彼女の疑問に答えながら、彼は顎下に手を当てながらその様に答えた。
「と言いますと?」
「・・・・・・・・・・えっ?」
「いえ、そう言った先輩方と兄さんは違うというのはどういうことか少し気になったもので。・・・・・・・・・・訊かない方が宜しかったですか?」
「あ、あぁ・・・・・・・そういうことか。」
彼女が質問した意図を彼女の口から聞いた連人であったが、答えた方が良いか少し悩んでしまう。
『マスクドガイ・ザ・パワード』という姿はヒーローなどではない。自身がこの世界を壊すために願った力であることを彼女に話せば、彼女は彼のことをどう見るだろうか。
彼女は、彼に対し世界を守るためにここに居ると言っていた。
しかし、彼は世界を壊したいと願う力を得るために力を得た、いや、欲してしまった。
世界を守る存在である
守るためにいる愛と、壊したいと願う連人。
彼が今朝方感じたその違いのことを彼女に話せば、どう対処するだろうか。
少なくとも、共に、一緒に居ようとは思わないだろうと連人は考えた。
そのために、彼は彼女の問いに答えることは出来なかった。
話題を変えるために彼はわざと咳払いをすると、ずいと身を乗り出す様にして記事を見た。
「それはともかくとして、だ。よく撮れてるな、これ。」
「えっ?」
「お前もそう思わないか、愛?なんかカッコよく映ってるよな、これ。」
「ヤ、ja。たしかにそうですね。よく映っておいでです、兄さん。」
「誰が撮ったんだろう、これ。気になるな。」
「ハッハッハッハ!!疑問かな!?疑問だね!?疑問だろう!?疑問なんだろう!?この写真は誰が撮ったのか、誰がこの記事を作ったのか!?」
連人の疑問に答える様に背後から声が掛けられる。その声が誰のものか分からない愛は隣にいる彼の顔を窺うと、そう言えばそうだったっけ、と思い出したかのような顔を彼はしていた。
「葵先輩ですか、これ。」
「よく撮れてるだろう、この写真!!いやぁ、我ながらよく撮れたものだと自負してるよ!!」
まぁ、それでも。
「自分からネタになってくれるとは、手束、やっぱり私の目に狂いはなかったね!!」
ハッハッハ!!と笑いながら彼の背中をバンバンと真実は勢い良く叩いた。
「自分から、ネタになったわけじゃないんですがね。」
「えっ、なにそれ、謙遜?ハッハッハ、分かってる分かってる!!ネタがないから、ネタになりに行ったってのは、別に言わなくても!!」
「・・・・・・・・・ですから、自分からネタになりに行ったわけじゃないんですよ、葵先輩。」
「ハッハッハ!!んなわけ・・・・・・・・・・・・・えっ、本当に?」
「本当です。」
「本気と書いてマジとか読んじゃうくらい本当?」
「本気と書いてマジとか読んじゃうくらい本当です。」
連人の言葉を聞くと、真実は彼の背中に当てていた手を離すと、彼の肩にポンと軽く手を置いた。
「ごめん。」
「なにがですか?」
「いや、だって個人情報載せちゃったし。・・・・・・・・回収できる分は回収しとく?」
「・・・・・・・・先輩。一応、訊きますけど。十津沼田のキャンパスにも貼ってませんよね?」
「ごめん、貼ってる。」
真実からその言葉を聞いた瞬間に連人はガクッと肩を崩す様に上体を崩した。
「で、でも、あっちの方には行かないでしょ、手束?」
「今借りてるアパートが十津沼田にあるんですよ・・・・・・・・・。」
「分かった。すぐ剥がして来る。」
彼女がそう言うと、愛は疑問に思った様子で彼女に訊いた。
「横から失礼します、兄さん。・・・・・・・・葵さん。」
「・・・・・・・・あれ、愛ちゃんだっけ?手束の妹の。」
「ja。兄さんがいつもお世話になっております。」
「いや、別にいいけど。・・・・・・愛ちゃんもうちの生徒だっけ?手束、大学と無関係の人を連れてきちゃ・・・・・・・。」
「nine。大学と無関係なわけではありません。」
「それって、どういう・・・・・・・?」
意味なのかなと続く前に愛は真実の目の前に自身の学生証を出した。
「実を言いますと、私もここの生徒なのですよ。」
「えっ、そうなの?」
愛の言ってることが信じられない様子で真実は連人に事実かどうかを確認する。その質問に対して連人は頷いて答えた。
「えぇ、そうなんですよ。生まれつき体が弱いからか、入学式の時には来れなくて。昨日リハビリがてらに学校に来たってわけです。」
「へぇ~、そうなんだ。言われてみれば、なんか肌の色、薄い気がしてたからもしかしてそうなのかな、でも、個人情報だし踏み込んだ質問はちょっとなぁ、って思ってたんだけど。」
「に、兄さん。」
連人から何も聞かされていない愛は少し慌てた様子で彼に意見を求める。だが、彼はそんな彼女にウィンクをするだけで何も言わなかった。
「となると、昨日のあの時に、愛ちゃんは近くには・・・・・・・・。」
「部屋に戻ってましたから、あの場にはいませんでしたよ?いやぁ、昨日何があったのかは特には言ってませんでしたから、愛に質問攻めにされると身構えていたら、先輩が来たもんですから、助かりましたよ。ナイスタイミングです、先輩。」
「えっ。あ~、そうかな?あはははは・・・・・・・。」
褒める様に言った彼の言葉に真実は恥ずかしさを隠す様に頭を掻くそぶりを見せた。その様子を見て、連人はもう少し、言った方がいいなと感じた。
「まぁ、こいつは体が弱いモノで。俺が周囲から視線を向けられる分には文句はないんですが、愛は愛でべっぴんさんでしょ?こう下心丸出しのやつが愛にちょっかい掛けてくるかもしれないんで。」
「あぁ、よくある嫉妬心から近くにいる女性に手を出して我が物にしたいと思って近づいてくる可能性があるってわけか。」
「その通りです。流石です、葵先輩。」
「分かった。ここと十津田沼に貼ってある分はミスを見つけたってことで回収しとくわ。」
「頼みます、先輩。」
「そういうわけだから、ちょっと回収してくるわ。それじゃね、手束兄妹。」
「よろしくです、先輩。」
「・・・・・・・・・・えっ。ヤ、ja。よろしくお頼み申し上げます。」
愛が入る間もなく、連人の真実は終わり、彼女が記事の回収をしてくると言ったところで話の流れを遅くなりながらも理解できた愛は去って行く真実に頭を下げようとしたところで、彼女の姿は見えなくなってしまった。
そして、真実の姿が見えないことを確認すると、連人はようやく安心できるといった具合で口を開いた。
「ふぃ~。なんとかなったか。」
「なんとかはなったかもしれませんが、少し強引だったのでは?私の体が弱くないものだと彼女に判明したその時はどうするのです、兄さん?」
「へっ、その時はその時で、今がその時じゃない。それだけの話さ。」
「兄さん。それは難しいのではないのでしょうか?」
今がその時ではないだけで、その時はいつか来るのではないか?と彼に言おうとした彼女は言うのをやめた。
何故なら、彼女がそう言う前に、彼が言ったからだった。
「説明しなくちゃいけなくなるいつかってのはそりゃ来るだろうさ。だけど、今は説明するよりこの記事をどうにかしなくちゃいけないってのが優先だ。」
だろ?と言いながら彼は記事を指で叩く。
「新聞部って立場だからかはともかくとして、俺の名前が出た以上はお前にちょっかい掛けようって輩がいつかは出てくる。ま、それの予防策だわな。」
「予防策・・・・・・・・・・ですか?ですが、私には、『アイゼン』があるので、大丈夫だと思いますよ?」
「お前の心配じゃない。それを知らない相手のだ。」
そう言われた彼女は彼の言葉が分からない様子で首を捻っていたが、彼から言わせてもらえば、見た目が可憐な少女の大型機動兵器の制御用AIというとんでもない代物が自身の身を守ろうと『シュツルム・アイゼン』を呼ぶ可能性がる。呼んだ後で、相手がどうなろうと連人の知ったことではない。だが、連人がその様に思い付いたということはそうなる可能性が完全にないと断言できるわけではない。
とある話をしよう。
その昔、とある物理学者はとある思考実験を世に生み出した。
その法則は、ランダムに時間を設定した毒ガス噴射機が取り付けられた檻に一匹の猫を入れて、適当な時間になったら、檻を開けて猫の状態を確認するといったものだ。
俗に言う、『シュレティンガーの猫』と呼ばれる思考実験である。
ここで、問題である。
檻を開けたときに猫はどの様な状態になっているだろうか。
その答えは分からない、と言えよう。
毒ガスがすでに噴射されて猫がすでに死んでる可能性もあるし、毒ガスが噴射されてまだ時がさほど経過しておらず猫がまだ生きている可能性もある。毒ガスが噴射されていないので猫がまだ生きている可能性もあるのだ。
もしかすれば、これ以外の答えが出てくる可能性もあるかもしれない。
だが、完全にありえないと断言は出来ないのだ。
となれば、連人が思い付いてしまった以上はその可能性は少なからずあると言えるのだ。
であれば、愛がその相手を万が一にも手にかける可能性もなくもないと言える。そのために、連人はその予防策に真実に記事を回収をしてもらう様に言ったのだ。
まぁ、連人がそんなことを考えていたとしても愛には分かってはいない様子だった。
「ま、どうにかはなるだろ。」
一応、予防策はしたからそのことは考えなくてもいいかと連人は考えることをやめた。
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